コーディネートはこうでねえと

本ブログの12日エントリマンキューの資本注入案を紹介したが、マンキューブログの12日エントリでは、オースベル(マンキューのプリンストンの同期とのこと)とクラムトンという二人の経済学者によるオークションを活用した資本注入案が紹介されている。

本ブログの12日エントリでは、マンキュー案では政府が民間に委任し過ぎではないか、という小生の懸念を述べたが、こちらのオークションを活用する案では、その問題点は緩和されるように思われる(実際、オースベル=クラムトンもそう述べている)。


しかし、である。資産買い取りの議論に際しても思ったことだが、本来の民間市場が凍って動かない時に、こうしたオークションの仕組みを整えて官製市場を作ればそれだけでうまく行くものなのだろうか? それ以外に、やはり政府ならではの役割を演じる場面があるのではないだろうか?


そうした疑問に比較的きちんと答えてくれるブログエントリを意外なところで見つけた。これは、ダイアモンドとカシャップが、レヴィットの求めに応じて、freakonomicsブログにゲストブロガーとして書いたものである。

ダイアモンドは、最近日本のブログ界隈でも取り上げられた(たとえばここここ)Diamond-DybvigモデルのDiamondにほかならない。また、カシャップは星岳雄などと共に日本の90年代不況期の銀行の問題を研究してきたので、ご存知の方も多いだろう。つまり、この二人は、こうした問題を語ってもらうにはまさにうってつけの人材、ということになる。


彼らの解説によると、資本注入において民間が果たすことができない政府ならではの役割は、銀行システム全体のコーディネーションの問題の解決にあるという。

Government programs that allow large increases in capital in all reasonably healthy banks can remove the risk of many banks failing just after new equity is injected. The government can be viewed as solving a coordination problem (to deal with the entire system’s stability) that private investors would not easily be able to do. This type of recapitalization need not be extremely expensive to taxpayers, but the devil is in the details.

しかし悪魔は細部に宿る(but the devil is in the details.)というなら、具体的にはどうするんだ、ということになるが、ダイアモンド=カシャップは、まず倒産手続きを明確化し、資本注入後に倒産した場合の資本の扱いをはっきりさせるべきだ、と論じている。

Without clear rules on how closures will be handled, private investors are reluctant to gamble on putting money in. In addition, it has become difficult to raise capital in shaky banks because no one knows how investors who inject capital now will be treated if the government later invests capital in their banks.


さらに、資本注入がうまく行く条件として、以下の3つを挙げている。

  1. 銀行が十分な資本を得ること。これまでの例、および日本の例では、これで大丈夫、と銀行が宣言した後に駄目になった、ということがしばしば起きた。今回の1250億ドルの注入も、十分な検査の時間を掛けずに行なったので、どうなるか分からない。また、デット・オーバーハング(新たに得た資金のお蔭で利益が増えても、その果実が従来からの長期債務の利払いに優先的に回ってしまうこと)の問題により、銀行の株主が増資に二の足を踏み、むしろ配当という形での還元を継続したがる、という問題もある。

  2. パニックを避けること。例えば一部の銀行だけに保証を提供すると、それ以外の銀行が窮地に陥る。

  3. 税金を無駄にしないこと。支払い不履行の恐れや、デット・オーバーハングの問題が深刻な銀行には資本注入を行なわない。


そして、これらの条件を満たすプランとして、ダイアモンドとカシャップとラジャン(=最近話題のこの本で取り上げられたラジャン)の3人の連名による提言や、シカゴ大の同僚が立ち上げたサイトが紹介されている。
ダイアモンド=カシャップ=ラジャンの提言は、以下のようなかなり思い切ったものである。

  • すべての短期債務を政府保証する。たとえば3ヶ月より短い満期のものを対象にし、5ヶ月までの繰り延べを認める。同時に、保証期間中の資産増加は通常の貸出増加の範囲内に抑え、配当支払いは停止する。
  • この保証で時間稼ぎした期間内に、政府が資産査定を行なう。資産価格は、市場価格(すべての銀行について統一基準の価格を適用するが、叩き売り価格よりは高くする)を基に決める。査定の目的は、自己資本の算出である。
  • 銀行に増資を求める。増資する資本の返済優先順位は、従来の資本より高いものとする。

こうした枠組みの中でなら、資産査定において、民間による査定や、オークションを活用してうまくいく可能性は高まるように思われる。
冒頭のマンキューやオースベル=クラムトンの提案に抜けていたのは、こうした枠組みを用意するという政府の役割である。極力民間に任せたい、という気持ちは分かるが、いわば政府がただ横で突っ立っているだけの状況で、民間の人たちに、さあいらっしゃい、お好きな銀行にどうぞ資本提供を、と呼びかけても、そうは問屋が卸さないだろう。