ゲーム理論入門/(10)Two-Person Cooperative Games(1953)

本日で最終回。今日はナッシュの二人協力ゲーム論文のレジュメ。
なお、今回の「ゲーム理論入門」シリーズの主たる参考文献はこちら。

はじめてのゲーム理論 (有斐閣ブックス)

はじめてのゲーム理論 (有斐閣ブックス)


Two-Person Cooperative Games(1953)

INTRODUCTION
  • 協力ゲームの理論

      協力ゲーム=完全に対立するわけでも完全に一致するわけでもない利害の調整

  • ノイマン=モルゲンシュテルンの方法の問題点
    • Side-payment(利得の譲渡)が可能という前提を取り入れたため、理論の適用範囲が狭まった。(Ex「この商品は自分がもらう代わりにお前に2000円やる」)
    • 解が一意に定まらず、解の範囲を提示するだけ。
  • 2つの方法で協力2人ゲームの解を導出
    • 非協力ゲームに還元
    • 公理的方法
THE FORMAL REPRESENTATION OF THE GAME
  • 2人が協力すれば実現可能な効用関数の集合(凸集合かつコンパクト)Bが(u1, u2)平面に存在。
  • 2人の戦略の組み合わせ(s1, s2)に対応する各人の効用p1(s1, s2)とp2(s1, s2)が集合B上に存在する。
    (p1, p2は(s1, s2)の双線形関数と仮定)
THE NEGOTIATION MODEL

交渉のツールとして脅しを取り入れる


THE FORMAL NEGOTIATION MODEL
段階1)
各人iが脅し戦略tiを選択する
段階2)
互いに脅し戦略を通知する
段階3)
互いに独立に(=コミュニケーション抜きで)、効用の要求水準diを決定する
=この水準が満たされない限り協力しないという水準
段階4)
利得の決定
u1≧d1、u2≧d2となる点(u1, u2)がB上に存在すれば、プレイヤーiはdiの利得を得る。それ以外の場合、pi(t1, t2)の利得を得る(=脅しの実行)。
交渉妥結の利得をdiとしたのは、最終的な解にバイアスが入るのを除くためと、各プレイヤーに可能な限り要求水準を高めるインセンティブを持たせるため。

段階2と段階4はプレイヤーの動作を伴わないので、これは事実上2段階ゲーム。


脅しが実行された場合のB上の点N(p1(t1, t2)、p2(t1, t2))を(u1N, u2N)と表し、要求水準が妥結可能ならば1、妥結不可能ならば0の値を取る関数g(d1, d2)を導入すると、
    プレイヤー1の利得=d1g + u1N(1-g)
    プレイヤー2の利得=d2g + u2N(1-g)
この時、Bの境界線上の点でNの右上に存在するものが解となる
    =解がユニークにならない
→ 平滑化という方法でユニークな解を求める
    =非連続関数gの代わりに連続関数hを導入

h(d1, d2)
B上で1となり、Bを離れると急速に0に近付く
要求水準の妥結可能性を示す

純化のため、(u1N, u2N)を原点に置く。
d2についてd1hが最大化され、同時にd1についてd2hが最大化される点が均衡解。
  =d1d2hが最大化される点(=図1〜図3の点Q)
この時、線分NQと、QでBと接する接線Tの傾きはちょうど逆となる(図2)


ここで、QはNの連続関数であり、Nは(t1, t2)の連続関数
→角谷の不動点定理より、最適脅し戦略(t10, t20)が存在


THE AXIOMATIC APPROACH

解が持つべき特性を公理的方法で述べていき、唯一解を導出。

公理1)
ゲーム(S1, S2, B)にはB上の唯一解(v1, v2)が存在。
公理2)
B上の点(u1, u2)が存在し、u1≧v1、u2≧v2ならば(u1, u2)=(v1, v2)。
公理3)
効用関数の線形変換によって解は変化しない。
公理4)
どちらのプレイヤーをプレイヤー1としても解は変化しない。
公理5)
IIAの仮定
公理6)
プレイヤー1の戦略の選択幅が狭まった場合に、解がプレイヤー1に有利になることはない;
S1⊃S1'ならばv1(S1', S2, B)≦v1(S1, S2, B)。
公理7)
プレイヤー1の解を有利にすることなしに、両プレイヤーの戦略を1つに絞ることができる;
v1(s1, s2, B)≦v1(S1, S2, B)。プレイヤー2についても同様。

公理1〜5はThe Bargaining Problem(1950)のものと同じ。
公理6、7が本論文で追加した脅し戦略に対応。