前回エントリの最後では紹介した論文から日本の実質金利に関する図を引いたが、試しに財務省の国債金利情報の3年物と消費者物価指数(総合)の前年比から同図の実際の実質金利を再現すると以下のようになる。

ここで青線が3年物金利、黄点線がCPIの前年比、橙線がその先行き3年平均*1、赤線が青線から橙線を引いたものとして計算した実質金利である。物価に関する参考情報として、茶線で米エネルギー情報局から取得したWTI原油先物価格の推移を示した(右軸)。
前回エントリでは1989年のバブルピーク時の実質金利の下振れを指摘したが、名目金利が下がったことに加えて、橙線の先行きのインフレ率が上昇したこともその下振れに寄与していることが分かる。なお、1989年4月には消費税が導入されているが、それ以外に90年8月のイラクのクウェート侵攻で原油価格が上昇したことが橙線のこの時の上昇をもたらしていることが図から読み取れる。
それに対し、90年代半ばの橙線の上昇は、専ら1997年4月の消費増税によるものだったように見える。1999年のゼロ金利導入に至る名目金利の低下に加えて、ここでも物価要因が実質金利低下をもたらしていたわけだ。
2006年の量的緩和解除前後の実質金利の一時的な低下も、橙線の上昇によって引き起こされたことが読み取れる。これは、リーマンショック近辺の原油価格の急騰が反映されたものである。その後の原油価格の急落も橙線に反映され、実質金利の上振れに寄与している。とはいえ、この時期に名目金利がそれまでよりも高めに推移していたことも事実で、金融環境が引き締め的だったという前回エントリの指摘はやはり成立しているように思われる*2。
2014年4月には消費税率が再び引き上げられ、物価の上昇をもたらしている。それに対し2019年10月の消費増税の影響はそれほど大きくなく、むしろコロナ禍や原油価格の動向が2010年代末以降の橙線の推移を決定づけているようである。それに伴い実質金利は大きく低下しており、さすがにこの時の実質金利は昨日紹介した論文の理論値を下回っていたと思われる。
なお、足元では3年先の情報はないので橙線は黄点線に収束する形になる。もし自然利子率が前回エントリで紹介した論文にあるようにゼロ%程度で変わらず、人々のインフレの長期予想が今回のインフレを経て2%程度になったのであれば、足元で実際の実質金利が理論値に再び収束しているのかもしれない。