政府はいつ公式統計を操作するか? 実証分析

というSSRN論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「When Do Governments Manipulate Official Statistics? An Empirical Analysis」で、著者はBruno S. Frey(バーゼル大、CREMA)、Louis Moser(CREMA)、Sandro Bieri(同)。
以下はその要旨。

Many countries all over the world have been reported to systematically manipulate official statistics. However, scholarly research has not extensively dealt with the extent and determinants of data manipulation, beyond democracy and autocracy. This paper extends the literature by including institutional factors hypothetically affecting the intensity of data manipulation.
Regressing the deviations of GDP – predicted by nighttime lighting data – from „officialGDP on these institutional factors suggests that economic openness decreases manipulation, while decentralization increases manipulation. Political openness decreases manipulation for countries under-reporting GDP and increases manipulation for countries over-reporting GDP. No effects are found for press freedom and the independence of the statistical office.
(拙訳)
世界の多くの国がシステマティックに公式統計を操作していることを報告されている。しかし、学術研究は、データ操作の程度と要因を、民主主義と専制主義という以上にはあまり取り上げてこなかった。本稿は、データ操作の程度に影響すると想定される制度的要因を織り込むことにより、この分野の研究を拡張する。
夜間照明データから予測されるGDPの「公的GDP」からの乖離をそれらの制度的要因に回帰すると、経済の開放度は操作を減少させるが、分権化は操作を増加させることが示される。政治の開放度は、GDPを過少報告している国では操作を減少させ、GDPを過大報告している国では操作を増加させる。報道の自由と統計局の独立については効果は見られなかった。

結論部によると、分権化の影響については、地方政府の操作余地が増すという仮説と整合的な結果との由。また、政治の開放度については、それが高い国では国際機関による自国の評価を上げて信用リスクを下げるためにGDPを過大評価するインセンティブが働く半面、他国との結びつきが強いとGDPが低い場合にそれらの国から支援を受ける必要性が高まるので、GDPの過小評価がしにくくなるのではないか、との由。
報道の自由が影響しない点については、(1)報道側も政府統計に異を唱えるだけのデータを持っているわけではない、(2)報道の自由はデータ操作よりも狭い範囲の政治的問題の捕捉に適している、(3)推計手法が報道活動と公的データ生成方法の関係を上手く捕捉できていない、(4)SNSに比べた報道の相対的重要性の低下、という4つの仮説を提示している。統計局の独立については、アフリカ諸国しかデータがなく、それらの国では他の要因にかき消されてしまったが、他の国でデータが取れれば有意になる可能性はある、と考察している。