経済学における大きな事実

少し前にクリス・ディローが以下のようなことを書いている

Unlearning Economics has a nice piece on the limits of sophisticated empirical techniques and the virtues of eyeball econometrics, reminiscent of Dave Giles’ advice “Always, but always, plot your data.” One extension I’d make to this is the importance of Big Facts. Sometimes, it’s more important that a theory explain a single important fact – or at least be consistent with it – than a range of small facts.
(拙訳)
Unlearning Economicsが、洗練された実証技法の限界と、目の子の計量経済学の長所について優れた記事を書いている。それはDave Gilesのアドバイス「常に、ただし常に、データを描画せよ」を想起させる。その話を延長して私は、大きな事実の重要性を訴えたい。理論が一つの重要な事実を説明すること――もしくは少なくともそれと整合的であること――の方が、一連の小さな事実を説明するよりも重要な時がある。

そして大きな事実の例として以下の4つを挙げている。

  • ファンドマネージャーは市場に勝てない
    • 効率的仮説に矛盾する小さな事実を研究者たちは数多く見つけ、現在では100以上のアノマリーがある。しかし、この大きな事実が厳然として存在する。
      • この大きな事実は必然的な話ではない。理論上はファンドマネージャーは小口投資家や海外の投資家を餌食として市場に勝つことができるはず。でも勝てない。
    • アノマリーはそれほど頑健でなく、ノイズの多いデータ中の再現不可能なパターンに過ぎないか、トレーダーが学習したら買い注文で消えてしまうようなものか、コストが高過ぎて現実には鞘が抜けないものなのかもしれない。そして、頑健なアノマリーはリスクを取る代償になっているのかもしれない。
    • するとこの大きな事実は、効率的市場仮説は少なくとも一つの点で概ね正しいことを警告しているのかもしれない。
      • ただし、市場が「ミクロ的に効率的」かつ「マクロ的に非効率的」な可能性はあるが。
  • 失業者は就業者より顕著に不幸せである
    • 人々は休みを取っている間は幸せなはずなので、この事実は、失業は自発的である、という労働市場清算的なリアルビジネスサイクル理論と矛盾。
  • 主流派経済学の予測者は一貫して不況の予測に失敗している
    • これは2008年に始まった話ではない。
    • 単純な利回り曲線よりも成績が悪い。
    • これが意味するのは、不況は本質的に予測不可能ということなのか、それとも(DSGEモデルのみならず)正統派マクロ経済学が何かを間違えているのか?
  • 生産性やGDPの成長率の顕著な鈍化は、(上位1%の所得比率でみた)格差拡大に続いて起きた
    • 格差の種類がまずいのか、それとも格差とは関係の無い要因が成長鈍化を引き起こしているのか?