以前LIBORの不正操作問題を扱ったダレル・ダフィー(Darrell Duffie、スタンフォード大)の共著論文を紹介したことがあったが、ダフィーによる同じテーマの別の論文をジョン・コクランが紹介している。こちらの論文はジェレミー・スタイン(Jeremy C. Stein、ハーバード大)との共著で、タイトルは「Reforming LIBOR and Other Financial-Market Benchmarks」。
論文ではLIBORだけでなくEURIBORやTIBORも含めた「IBOR」の問題点およびその解決策として、以下の点を指摘している。
また、IBORに関連した取引は、必ずしも銀行の信用リスクによるスプレッドも含まれた銀行借入金利を対象にしたいわけではなく、一般的な金利に関するリスクの移転を目的としているのが普通である。それにも関わらずIBOR関連の取引が多いのは、IBOR関係の取引がメジャーになると、流動性を求めて他の取引もIBORに集まってきて、それによってさらに流動性が高まる、という自己集積効果のためである。そのため、IBORの不正操作に手を染めた人間は巨額のポジションを取ることができ、わずか1bpの操作で大きな利益を手にすることができた。
論文では、LIBORの代替として国債金利やGCレポ金利を提案している。その際、例えば3ヶ月物金利を得るため、翌日物GCレポ金利の90日分をコンパウンドすることを提案している。というのは、翌日物金利は3ヶ月物金利に比べて市場が非常に厚いため、より頑健な指標となるからである。
ただ、論文ではそうした代替指標への移行を楽観視はしておらず、以下のように政策当局の介入を訴えている。
We do not underestimate the difficulty of getting market participants to opt for alternative reference rates so long as IBOR-based markets are so liquid. Precisely because everybody prefers to be in the high-liquidity club, there is a coordination problem. No individual actor may be willing to switch to an alternative benchmark, even if a world in which many switched would be less vulnerable to manipulation and offer investors a menu of reference rates with a better fit for purpose. Hence, there may be an important role for policymakers to guide markets in the desired direction.
(拙訳)
IBOR関連市場の流動性が非常に高い以上、市場参加者を代替的な参照金利に向かわせることの難しさを我々は過小評価してはいない。高い流動性のクラブに皆が属していたいというまさにその理由によって、協調の問題が発生する。個々のどの参加者も代替的なベンチマークに切り替えたいとは思わないだろう――仮に多くの参加者が切り替えた世界では、不正操作に対する脆弱性が小さくなり、投資家の目的により適合した参照金利のメニューが提示されるようになるのだとしても。従って、市場を望ましい方向に導くために政策当局者が演じるべき重要な役割が存在する可能性がある。