というNBER論文が上がっている。原題は「Long-run Bulls and Bears」で、著者はRui Albuquerque(ボストン大)、Martin Eichenbaum(ノースウエスタン大)、Dimitris Papanikolaou(同)、Sergio Rebelo(同)。
以下はその要旨。
A central challenge in asset pricing is the weak connection between stock returns and observable economic fundamentals. We provide evidence that this connection is stronger than previously thought. We use a modified version of the Bry-Boschan algorithm to identify long-run swings in the stock market. We call these swings long-run bull and bear episodes. We find that there is a high correlation between stock returns and fundamentals across bull and bear episodes. This correlation is much higher than the analogous time-series correlations. We show that several asset pricing models cannot simultaneously account for the low time-series and high episode correlations.
(拙訳)
資産価格における主要課題は、株式のリターンと観測できる経済のファンダメンタルズとの間の弱いつながりである。我々は、このつながりが従来考えられていたよりは強いという証拠を提供する。我々はブライ・ボッシャン法の修正版を用い、株式市場の長期の振れを特定した。我々はそれらの振れを長期の強気相場と弱気相場と呼ぶ。強気相場と弱気相場を通して株式のリターンとファンダメンタルズの間には高い相関があることを我々は見い出した。この相関は似たような時系列相関よりかなり高い。我々は、幾つかの資産価格モデルは、弱い時系列相関と高い相場相関を同時に説明できないことを示す。
論文のungated版は見当たらなかったが、スライド版はこちら。
ブライ・ボッシャン法の日本語での説明はこちらの内閣府資料の最後の「(参考1)」を参照。
スライド版によると、論文のブライ・ボッシャン法の修正版では、移動平均の代わりにバンドパスフィルタを用いるといった修正を施したとの由。その上で、株価指数だけを対象にその手法を適用し、米国の1871-2006年の期間において以下のように山谷を判定したという。
そしてその「強気相場(ブル)期」と「弱気相場(ベア)期」で区分けすることによって、以下のように株式のリターンと他のファンダメンタルズ指標との間に高い相関が見られたとのことである。
平均 | 強気相場期 | 弱気相場期 | 全期間 |
---|---|---|---|
年数 | 16.8 | 4.20 | |
割合 | 0.80 | 0.20 | |
株式リターン | 9.13 | -3.88 | 6.55 |
債券リターン | 1.98 | 0.01 | 1.65 |
エクイティプレミアム | 7.15 | -3.89 | 4.90 |
消費の伸び | 2.73 | -0.97 | 1.78 |
生産の伸び | 2.98 | 0.64 | 2.08 |
配当の伸び | 3.47 | -3.14 | 0.99 |
利益の伸び | 5.8 | -9.67 | 1.63 |
また、通常の1年や5年といった期間の相関と、相場期での相関を比較したのが下表である(=米国の1871-2006年における株式リターンと各ファンダメンタルズ指標の伸びとの相関)。
消費 | 生産 | 配当 | 利益 | |
---|---|---|---|---|
1年 | 0.090 | 0.136 | -0.039 | 0.126 |
(0.089) | (0.101) | (0.0956) | (0.1038) | |
5年 | 0.397 | 0.249 | 0.382 | 0.436 |
(0.177) | (0.137) | (0.148) | (0.179) | |
10年 | 0.248 | -0.001 | 0.642 | 0.406 |
(0.184) | (0.113) | (0.173) | (0.125) | |
15年 | 0.241 | -0.036 | 0.602 | 0.425 |
(0.199) | (0.148) | (0.158) | (0.111) | |
相場期 | 0.615 | 0.308 | 0.713 | 0.708 |
(0.271) | (0.303) | (0.305) | (0.292) | |
加重相場期 | 0.631 | 0.268 | 0.787 | 0.692 |
(0.147) | (0.168) | (0.131) | (0.149) |
(括弧内は標準誤差)
著者たちは米国だけではなく17のOECD諸国と7の非OECD諸国についても同様の分析を行っている。米国と先進国の各相場期の同期性は高く、0から1の値を取る同期性測定指標は最高で0.93に達し(カナダ、オランダ)、また、韓国とコロンビアを除きすべて0.5を超えたという。
スライドの最後では、時間を表す古代ギリシャの2つの単語としてクロノスとカイロスを持ち出し、クロノスは通常の時間だが、本研究では、何か特別なことが起きる不確定の時間であるカイロスと資産価格が相関していることを示した、と述べている。