リスク回避と自然利子率

というエントリをNY連銀のBianca De PaoliとBOEのPawel ZabczykがNY連銀ブログLiberty Street Economicsに書いている(原題は「Risk Aversion and the Natural Interest Rate」;H/T Economist's View)。
内容は概ね以下の通り。

  • 自然利子率を測定する際に考慮すべき重要な要因は、家計が貯蓄決定を行う際の不確実性およびリスクの回避。家計のリスク許容度は不況時に低くなり、予備的貯蓄を押し上げ、それによって自然利子率を押し下げる。従って、平常時における経済の波乱を抑えるのに適切な金利の引き下げ幅が、不確実性の高い時期には十分ではなくなる可能性があることに政策当局者は注意しなくてはならない。
  • 自然利子率は観測不可能だが、モデルで測定することができる。著者たちの開発したニューケインジアンモデルでは、海外要因は考慮していないものの、不確実性と予備的貯蓄を考慮している。
  • 標準的なニューケインジアンモデルでは、長期の自然利子率は潜在成長率と経済主体の割引率で決まる。中期においては、低成長期待が一時的に自然利子率を押し下げることが有り得る。そのほか、財政引き締め策や人々の割引選好の変化も自然利子率の低下要因となる。
  • 教科書的なニューケインジアンモデルでは無視されがちだが、リスク関連要因も重要。最近のIMF論文によると、2007年から2009年に掛けての家計貯蓄率の急激な上昇の5分の2は予備的貯蓄動機に帰せられるという。そして、予備的貯蓄の増加は自然利子率の低下と軌を一にしている。
  • 予備的貯蓄の変化は以下の要因で生じ得る:
    • マクロ経済の不確実性(ないしボラティリティ)の突然の変化
    • 経済主体のリスク許容度の突然の変化
    • 景気循環
      • リスクプレミアムの動学を捉えたモデルを構築したところ、経済主体は不況時によりリスク回避的になることが分かった。リスク許容度の変化が不況の原因ではないとしても、経済主体が消費に逡巡するようになると不況は深刻化する。このリスク回避による不況の深刻化メカニズムは、金融政策の効きが経済状況によって変わることを意味する。金融政策担当者はそのことを押さえておくべし。