緊縮政策は暴動を招く

ワシントンブログで知ったが、Hans-Joachim VothとJacopo Ponticelliという二人の経済学者が表題の主旨の論文を書いたという*1。両者はvoxeuにもその概要を投稿しており、既にEconomist's Viewが(The Irish Economy経由で)取り上げているほか、日本語ブログではこちらのサイトで紹介されている。


著者たちはvoxeuで自分たちの得た結果について以下のように書いている。

One key determinant of the level of unrest should then be the scale of government expenditure cuts. We assemble cross-country evidence for the period 1919 to the present, and examine the extent to which societies become unstable after budget cuts. The results show a clear positive correlation between fiscal retrenchment and instability.
(拙訳)
(所得が落ち込んだ時に既存の秩序を変える機会コストが低下し騒乱や革命が起きやすくなる、という経済学者の従来の知見からすると)騒乱の度合いを決定する重要な要因の一つは、政府の財政支出削減の規模となるはずである。我々は1919年から現在までの各国の実証データを集積し、予算削減の後に社会がどの程度不安定化するかを調べた。その結果、財政緊縮と社会の不安定化の間に明確な正の相関を見い出した。


その騒乱の時系列推移が下図。ここでは1919-2009年の欧州における反政府デモ、暴動、暗殺、ゼネスト、革命の企ての5種類の騒乱を対象にしており、まとめてCHAOSという変数名で呼んでいる。


そして、CHAOSと財政支出削減の規模の関係を描いたのが下図。

この結果について、著者たちは以下のように補足している。

  • 増税は同様の結果をもたらさない。騒乱との相関は存在するが、有意でない。
  • 財政支出削減と社会の不安定化が共に景気の悪化を反映したに過ぎない、という可能性について検証したところ、否定的な結果が得られた。経済が悪化すれば確かに騒乱は増加するが、その効果をコントロールした後も財政支出削減が社会の不安定化の程度を高めることが確認された。
  • 自動安定化のような仕組みによる財政支出削減を対象外にし、明確な政治的意思によって実施された財政支出削減に対象を絞った場合も、上図と同様の結果が得られた。
  • 反政府デモのデータの一部についてはデモの目的に関する情報も添えられていたので、平和や環境に関するデモが緊縮策と関係しているかどうかを調べた(「偽薬テスト」)。その結果は否定的であり、実証が誤って第三の変数の効果を拾っていることは無い。
  • 専制国家と民主主義国家を比較した場合、全般的な傾向は同様であったが、為政者への制約が大きい国ほど緊縮策が騒乱をもたらす可能性は弱まった。

*1:ワシントンブログはCEPRのサイトの論文にリンクしているが、そちらは有料。本文でリンクしたSSRNは、ワシントンブログが紹介しているCNN記事のリンク先。なお、著者たちはvoxeuのサイトにも論文をアップしている