否定的結果の論文誌

何だかThe Unbirthday Songのような逆説的な感を受けるが、否定的結果を出した論文を集めた学術誌についてFrances WoolleyがWCIブログに書いている


そのエントリの冒頭に取り上げている「European Journal of Negative Research Findings」は「The Laurie Taylor Guide to Higher Education」という本のネタだそうだが、以下の論文誌は実在するという。


Woolleyは「Journal of Articles in Support of the Null Hypothesis」のサイトから以下の文章を引用している。

In the past other journals and reviewers have exhibited a bias against articles that did not reject the null hypothesis. We seek to change that by offering an outlet for experiments that do not reach the traditional significance levels (p < .05). Thus, reducing the file drawer problem, and reducing the bias in psychological literature. Without such a resource researchers could be wasting their time examining empirical questions that have already been examined. We collect these articles and provide them to the scientific community free of cost.
(拙訳)
これまでの学術誌とその読者たちは、帰無仮説を棄却しなかった論文に対し偏った見方をしてきました。我々は伝統的な有意水準(p < .05)に達しなかった実験を出版する場を設けることによって、そうした状況を変えたいと考えています。それにより、お蔵入り問題*1が減少し、心理学研究における偏りを減らすことにつながると考えられます。そうしたリソースが無いと、研究者は既に調査済みの実証問題を調べることで時間を無駄にすることになりかねません。我々はそうした論文を集め、科学界に無料で提供します。


ただ、こうした否定的結果を集めた論文誌が実際に出版バイアスを減らせるかどうかについてはWoolleyは否定的である。というのは、2002年に創刊された「Journal of Negative Results in Biomedicine」は年間に10余りの論文を出版しているに過ぎず、「Journal of Articles in Support of the Null Hypothesis」は半年毎に出している各号にせいぜい2〜3の論文を掲載しているに過ぎないからである。出版バイアスは出版社や読者といった需要側の問題だけでは無く、研究者という供給側での問題でもある(あるいはそもそもそちらの問題なのかもしれない)、というのが彼女がそこから導いた結論である。


これに対しては、研究者というよりは研究費を出す側の問題だろう、という指摘がコメント欄でなされている。ちなみに「Journal of Negative Results in Biomedicine」は掲載料として一論文当たり1685ドルを課金するとのことだが、これは公開アクセスの学術誌では珍しくない水準――購読料金ではなく研究費で経費を賄うという発想なので――とWoolleyはコメント欄で書いている。

*1:cf. ここ