経済学者がよくやる間違い

エズラ・クラインが、タイラーコーエンのエントリに触発されて、経済学者が見落としがちな現実世界の重要な点をリストアップしている(H/T okemosさんツイート)。以下はその拙訳。

  1. 政治力は重要。短期的には経済的に効率的な結果であっても、長期的には政治力に危険な不均衡をもたらすものもある。それは結局のところ、経済的にも効率的ではないことになる。このことは、多くの経済学者の組合に対する見解にとって特に示唆的である*1
     
  2. 文化は重要。それは、人間が実際に行動するパターンと同じくらい重要。政策の中には、理論と実証には適合するが、社会や人々には適合しないものもある。この点に関するデビッド・ブルックスの指摘は正しい
     
  3. ある政策が、補償的な二次的政策があって初めて意味を持つならば(例:低所得者層への何らかの還付とセットになった逆進税)、その補償的政策が成立する見込みがあるかどうかを自問自答すべき。もしその答えがノーならば、成立しそうなものを考えるか、そもそもの政策への支持を再考すべき。取引で負け組となった者も理論的には補償され得るからと言って、そうなることを前提にはできない。
     
  4. 政策の問題の多くは、巧妙な政策的解決法で対処できることが多い。しかしワシントンは、巧妙なものを通したり導入したりすることに長けているわけではない。単純な政策計画と規則が、たとえ理論的には劣るとしても、実務的にはより優れていることが多い。
     
  5. ナショナリズムの力は極めつけに強力である。それは、低姿勢で対処したとしても、どこかへ消えてしまうようなものではない*2
     
  6. 「理論ではこうなる」で議論にけりを付けることはできない。また、経済学の実証結果はもっと謙虚に提示されるべき。それは後になって引っ繰り返されることや、現在は間違って理解されていることが良くある。それに、これまで、特に最近に経済学者が一般人に垂れたご託宣は、それほど芳しい結果をもたらさなかった。
     
  7. 政治学者や社会学者などに耳を傾けるべき。彼らは考慮に値する観点、実証結果、そして訓練を備えている。
     
  8. 政策論議はしばしば政治目的の駒となる。あなたはシンガポールの医療システムが良いと思うかもしれない。そしてある政治家は、オバマ医療改革法案に反対するスピーチでシンガポールの医療システムを――大抵は間違った形で*3――持ち出すのが有効な戦略だと考えるかもしれない。だが、2人が志を同じくするものだと思い込む前に、その議員がその問題に関してあなたが建設的だと思う法案を導入ないし共同提案したことがあるか確認してみるべきである。自分が方便として使われてるのだということを自覚していない政策の専門家ほど哀しいものは無い。
     
  9. 「確率的」という言葉の意味を真に理解している者は誰もいない。
     
  10. おそらくあなたの面識のある人間の大部分は、ある種の人間だろう。即ち、高等教育を受け、立派な業績を成し遂げ、非常に知的で、…といった感じの人間だ。またあなたは、そうした人間とのやり取りや彼らの考えを過大なほど重視する半面、あなたを説得する適切な方法を知らない人々の議論や不平を軽視していることだろう。そのことを心の片隅に留めておいてほしい。

*1:cf. マンキューがリンクしたリチャード・フリーマンの考察

*2:これに対しマシュー・イグレシアスは、「To be clear, nationalism *is* a very powerful force but it can (and should!) be fought (by condescension if necessary), not appeased.[(拙訳)明確にしておくべきは、ナショナリズムは確かに非常に強力だが、(必要ならば腰を屈めてでも)闘うことができるもの(かつ闘うべきもの!)であり、宥和すべきものではない]」とツイートしている(H/T Marginal Revolution。)。

*3:cf. このエントリで紹介したハーフォードの意見。