なぜ資本主義経済は需要制約型になるのか?・続き

13日のエントリで表題の件を巡るピーター・ドーマンとNick Roweの論争を紹介したが、その後、Roweが自らの昔の共著論文で示したモデルを持ち出し、独占的競争理論による供給超過の説明を図った


小生が理解したところによると、そのモデルと通常の独占的競争理論との違いは以下のようになる。

●通常の独占的競争理論

価格をP、数量をQ、費用をTCと置くと、企業はP×Q−TCを最大化しようとする。
その一階条件は、
 Δ(P×Q−TC)= P×ΔQ + ΔP×Q − MC×ΔQ
がゼロになることである(ただし、MC=ΔTC/ΔQは限界費用)。
ここで、{P,Q}平面において右下がりの需要曲線を前提とすると、右辺第一項はΔQだけ増産[減産]することによる増収[減収]であり、右辺第二項は右下がりの需要曲線に沿ってΔPだけ値下げ[値上げ]することによる減収[増収]である。両者を合計したものがネットの増収分であり、限界収益(正確には限界収益×ΔQ)である。

需要の価格弾力性は
 e=−(ΔQ/ΔP)×(P/Q)
として定義されるので、これを用いると上式は
 Δ(P×Q−TC)= P×ΔQ×(1 − 1/e) − MC×ΔQ
となる。即ち、限界収益はMR=P×(1 − 1/e)となり、それが限界費用MCと等しくなるところで企業は生産を行う。

Roweモデル

Roweのモデルでは、通常の独占的競争理論で企業が生産を行うところから出発する。すなわち、MR=MCが満たされているQ=Q*から話が始まる。
通常の独占的競争理論と彼のモデルが違うのは、価格をPで固定したままの限界収益を考える点である。つまり、ΔQだけ生産量を変えても、価格を需要に応じて微調整することはしない。そのため、ΔQの増産分がすべて捌けるとは限らず、ある確率Uで売れ残ることになる。需要曲線が不確定の場合、このUは積分項を伴う複雑な式となるが、需要曲線が確定した場合、その確率は単純な式となる。具体的には
 U = 1/e
となる。
この場合、先の一階条件は
 Δ(P×Q−TC)= P×ΔQ×(1−U) − MC×ΔQ
となる(P固定なのでΔP=0であることに注意)。これにU = 1/eを代入すると
 Δ(P×Q−TC)= P×ΔQ×(1 − 1/e) − MC×ΔQ
となり、結果的には独占的競争理論と同じ式になる。


冒頭に述べたとおり、Roweがこのモデルを持ち出したのは独占的競争理論をベースとした超過供給の説明を試みるためだったが、上記に見られる通り、確定的な需要曲線を前提にする限りは通常の独占的競争理論と基本的な違いは無く、前回紹介したドーマンの批判に応えたとは言い難い。あるいは、需要曲線が不確定の場合のUの式をうまく使えば説明が可能になるのかもしれないが、今回Roweはそこまで踏み込んでおらず、今のところそこで話は終わっている。