3/17エントリで導いた
という式に関し、3/19エントリへのコメントで、これは名目貨幣成長率gM一定を仮定しているので、シニョリッジd一定を仮定した場合には対応しない、という指摘を岩本康志氏から頂いた。それに対する小生の返答は、gM一定の仮定で導いたπは、d一定の場合のπの下界になっている、というものであった。
以下では、3/15エントリで提示した図を元に、その返答の意味を具体的に説明してみる。
まず、gM一定の場合にインフレが昂進した場合を考えてみる。シニョリッジは、d=Δm+πmとd=gMmとの交点で表されるので、0期から1期にかけてπがπ0からπ1に増加した場合、下図のようにd0からd1に低下する。
すなわち、gM一定の場合には、実質貨幣残高mの縮小に伴ってシニョリッジはどんどん低下していってしまうのである。
従って、これを一定に保つためには、gMを増やしていく必要がある。つまり、名目貨幣供給について「同じ場所に留まるためには、絶えず全力で走っていなければならない」という状況に置かれるわけだ。このことを図示すると以下のようになる。
ここでは、0期から1期にかけて一度d0からd1に低下したシニョリッジを、π1をπ1’に増やすことにより元に戻している。この時のπの増加は、gMの増加により達成されることになる(実際にはπ1→π1’の増加によりさらにmが減少し、それを埋めるためにπをさらに増やして…、という2次的な収束過程もあるが、上図では省略)。このため、シニョリッジを一定に保つインフレ率は、貨幣供給一定の場合よりも発散速度は速まる。
実際にそれを数値シミュレーションで見てみたのが下図である。
ここでdは左軸、gMは右軸に取った*1。横軸のtは0から1.8まで0.1刻みで取っている。
gMを0.5(=50%)で一定にした場合(水色線)、それに対応するdは減少していく(青色線)。
一方、「目標設定時」という記述を付けたgM(黄色線)とd(桃色線)は、dを一定に保つようなルールをgMに課した場合である*2。この時のgMは、当初は50%近辺で推移するものの、やがて発散していく。
目標設定時のπは、gM一定の場合のπに、上記のgM増分が上乗せされた形になっている。
[3/22追記]
岩本氏からΔmに関するコメントを頂いたので、参考までにmとΔmの推移図を追加しておく。
ここでmは左軸、Δmは右軸である。
目標設定時のmは小さくなるが、これはm = C・exp(-bπ)としているので、πが大きくなればmは小さくなるためである。
一方、それにも関わらず、Δmは大きくなる(マイナス幅が縮まる)。Δm=m×(gM−π)なので、mの縮小効果によってΔmのマイナス幅が小さくなるわけだ(ここで(gM−π)=-A・exp(t/b)はいずれのケースも同じ値)。従って、そのままいけば今期から次期に掛けてのmの下落幅は目標設定時の方が小さくなるはずだが、次期もまたgMを上方修正するので、mの下落幅は結果的に大きくなる。
*1:bは1/3、Aは0.01、Cは0.1と置いた。ただしCは実質貨幣需要関数m = C・exp(-bπ)における係数(3/16エントリ参照)。
*2:具体的には、まず、gM・C・exp(-bgM)にb=1/3、C=0.1、gM=0.5を代入してdの目標値を定めた(=静的な状態でのd=0.0423)。次いで、前期のgMをそのまま今期に適用した場合のmとdを求め(それぞれm',d'とする)、dの目標値とd'との差分をm'で割ったものを、前期のgMに加えて今期のgMとした(初期[t=0]では、前期のm,d,gMとして、最初のシミュレーションのt=0における値を用いた)。なお、このルールでは前述のm縮小の二次過程を無視しているため、図に見られる通り、実際に得られるdは目標値には一致しない。特に図の右端のt=1.8以降は、その未達成の乖離度合いが大きくなっていく。