大不況期の価格マークアップの説明

という記事(原題は「Explaining Price Markups During the Great Recession」)をセントルイス連銀の「On the Economy」ブログが上げている
以下はその冒頭。

The U.S. economy experienced severe economic slack during the 2007-09 Great Recession, but inflation didn’t fall as much as some might have expected. “One potential explanation for the missing disinflation is the upward pressure in pricing through an increase in the desired markup,” wrote Economist Sungki Hong in an August 2018 Economic Synopses essay.
In a previous essay, published in June 2018, Hong found that price markups (or the margin of price over the marginal cost of production) tend to rise during economic busts. Furthermore, small firms’ markups tend to rise relatively more than large firms’ markups do during these periods.
(拙訳)
米経済は2007-09年の大不況の間に深刻な経済的スラックを経験したが、インフレは一部の人が予想したほど低下しなかった。「起きなかったディスインフレの一つの説明候補は、望ましいマークアップの増大による価格付けの上方圧力である」と経済学者のスンキ・ホンは2018年8月の「経済概要」のエッセイに書いた。
2018年6月のその前のエッセイで、価格のマークアップ(生産の限界費用を超えた価格マージン)は経済の不況期に上昇する傾向があることをホンは見い出した。また、そうした時期に、中小企業のマークアップは大企業のマークアップよりも増加する傾向がある*1

ホンは、一般に使われる寡占的競争モデルと顧客資本モデルのどちらが大不況のミクロデータに適合するかを調べ、以下の結果を得たという。

  • 寡占的競争モデル
    • このモデルでは、生産性の水準が相異なる企業が、市場占有率を巡って競争する。均衡では、最も生産性の高い企業が最大のシェアを得て最も高いマークアップを課し、最も生産性の低い企業が最小のシェアを得て最も低いマークアップを課す。
    • このモデルの予測では、大不況期に平均的な価格マークアップは29%増加した。不況期に退出しなかった企業は市場シェアを増やし、マークアップを増加させた。しかし、中小企業のマークアップ増加率が28%だったのに対し、大企業のマークアップ増加率が35%となり、不況期には中小企業のマークアップ増加率の方が高い、という実証結果にそぐわない結果となった。
  • 顧客資本モデル
    • このモデルでは、顧客資本を増やすため、企業は価格を下げて顧客を惹き付けロックインしようとする。そうした企業にとって商品の販売は、いわば顧客資本への一種の投資となり、いったんロックインすると、価格を上げて収穫を得ようとする。不況期には中小企業の方が退出しやすいが、退出前には将来の顧客資本のことをあまり考えなくて良くなるため、価格を上げて顧客から収穫を得ようとする。
    • このモデルの予測によると、退出前の企業は、継続企業に比べ、平均して5.1%大きく価格マークアップを上げる。また、その退出決定の効果は中小企業の方が強く、大企業よりも2.2%大きくマークアップを上げた。

従って、大不況期のマークアップの増加については顧客資本モデルの方が良く説明できる、との由。

*1:原文の注釈によると、大企業と中小企業は業界シェアが1%以下か1%以上で区分したとの由。