欧州中央銀行は緑線を切ったのか?

表題はこのエントリで取り上げたネタを受けたものだが、欧州中央銀行が銀行への流動性供給を拡大したことが、結局裏口を使った国債買い支えになっているのではないか、というSimone Foxmanの12/16付ビジネスインサイダー記事が話題になった。ECBから低金利で借り入れた資金で高金利の周縁国のソブリン債を購入すれば鞘が抜けるので、銀行がそれらの国債を買うインセンティブが生じた、というのが記事の主旨である。実際にソブリン債金利下がったのはそれが原因だろう、とも記事では述べている。


タイラー・コーエンは既に8日にそうした裏口融資の可能性を指摘しており、翌9日にサルコジが同様のことを口にした際*1、それ見たことか、とばかりに早速取り上げている。今回のFoxman記事もコーエンはその8日の自エントリと関連付けながら取り上げているが、ただ、鞘取りの可能性については慎重な見方を示している。というのは、カール・スミスが指摘するようにそうしたアービトラージにはリスクが付き物であり、この記事が報告するように実際の銀行はそのリスクを取ることに及び腰だからである*2。コーエンは、むしろ政府が強権的に銀行に購入させるのではないか、と推測している。


そのコーエンの推測に対しスティーブ・ワルドマンは、いや、銀行がソブリン債を買うかどうかを最終的に決めるのは政府ではなく、それを担保として受け取るかどうかを決め、銀行――特に周縁国の銀行――の生殺与奪の権を握っているECBだろう、と異を唱えている


また、前述のカール・スミスは、これは複数均衡の問題で、流動性の供給で余裕が出来た銀行がソブリン債をもっと買えば、そのソブリン債のデフォルトのリスクが下がるという好循環が生まれる、と指摘している*3


そのスミスのいわゆる複数均衡の悪い均衡について書いたのがライアン・アベントである。彼は、国と一蓮托生であると同時に資産の健全化を求められる周縁国の銀行は難しい立場に置かれる、と指摘している。そして、それ以外の国の銀行はさっさと南欧を切り捨てるだろうが、さりとて民間への融資も拡大せず、クレジット・クランチという現状の嫌な均衡が続くだろう、との悲観的な見通しを述べている。彼は、Foxman記事で指摘された短期金利の低下についても、長期金利の大きな低下や株価の大きな上昇やユーロの回復につながっておらず、一時的なものではないか、との観測を述べている。

*1:cf. このFT翻訳記事

*2:cf. このFT翻訳記事

*3:ひょっとすると、これは日本の状況の一側面を言い当てているのかもしれない。