FRBの金利リスク

についてサンフランシスコ連銀のグレン・ルードブッシュ(Glenn D. Rudebusch)が書いている。彼は、短期金利が上昇した際のリスクと、長期金利が上昇した際のリスクを分けて分析している。


まず、短期金利上昇についてであるが、それは準備預金への付利の上昇という形でコスト増をもたらす。現在、準備預金は1兆ドル強、付利が0.25%であり、昨年の金利費用は31億ドルであった。一方、同年の収入は、およそ2兆ドルの長期債ポートフォリオに対する平均4%の金利収入という形で、829億ドルであった*1。ということで、この収入を金利費用で食い潰すためには短期金利は7%近くまで上昇する必要があるが、ブルーチップ経済予測では5年掛けて短期金利が4%、長期金利が5%まで緩やかに上昇するとされており、そうした水準への上昇は起こりそうに無い。また、短期金利がそのように上昇する頃には準備預金は危機前の水準まで減らされているだろう、というのがルードブッシュの見立てである。


次に、長期金利上昇については、保有長期債の評価損という形で損失をもたらす。これについては、前述のブルーチップ予測(=長期金利が5%まで上昇)に基づいたシミュレーションをNY連銀が行っており、その結果は以下の図のようになっている(ここではFRBが長期債を2012年から2017年に掛けて徐々に売却していくことを仮定している)。

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即ち、各種経費を差し引いた後の財務省への納付金は減少していくが、それでもかなりの額を維持する。もちろん、評価損によりFRBの利益がゼロもしくはマイナスになる事態も想定し得るが、その場合はこの納付金をゼロにすれば良く、FRB自己資本は維持される。最も極端なケースでも、繰延利益の変化という形で将来の納付金を減らすことにより、自己資本の安全性は確保される、とルードブッシュは言う。


なお、ルードブッシュはこの小論の最後に、こうした会計上の問題は、雇用と物価の安定という金融政策の目的からすると二次的な話に過ぎない、と釘を差している。ただ、現実問題として、中央銀行自己資本の毀損の恐れが政治的圧力を招くことはあり、過去にはその恐れが日銀の手足を縛ったこともあった、ともルードブッシュは指摘している*3。それを避けるためには、イングランド銀行のように予め免責を政府から取り付けるという手段もあるが(FRBも上記の会計上の仕組みによってそれとほぼ同等の免責を事実上確保している)、中央銀行が金融政策の目的と効果について一般との適切なコミュニケーションを行うのが最も大事、とルードブッシュは結論付けている。

*1:cf. ここ

*2:2013/8/26:img srcのリンク先変更(旧リンク先=http://www.frbsf.org/publications/economics/letter/2011/el2011-11-2.png)。

*3:そこでルードブッシュが参照しているのは、本ブログで以前ここここここで取り上げたバーナンキの日本での講演である。