続・夕陽の銀行

ポール・ローマーがWSJで銀行救済について論じている。曰く、現在検討されているバッドバンクを作るのではなく、身綺麗なグッドバンクをTARPのカネを使って作った方が良いのではないか、との由。

このローマーの記事は、マンキューブログEconomist's Viewも特に論評することなく紹介している。ちなみにEconomist's Viewではエントリタイトルを「The Good Banks, the Bad Banks, and the Ugly Assets」としているが、これはこの映画の原題から来ている*1


ローマーの主張のポイントは、現在の銀行から悪い資産を除くのは手間と費用が掛かるので、新しい銀行を一から作った方が良いのではないか、という点にある。そして、その新しい銀行が経済が必要とする融資機能を担うようになれば、既存の銀行は通常の銀行規制に基づいて料理することができる。つまり、それら既存の銀行については、税金を投入することなく、FDICによる預金者保護を適用し、正確な資産算定をした上で、煮て食うも焼いて食うも(リーマン型の破局を招くことなく)政府が好きにできる、というわけだ。また、そうすれば、新しい銀行も、政府の金で変に生かされているゾンビ銀行との競争に悩まされる恐れはなくなる。


この主張は非常に単純明快で美しいが、現実に新銀行による機能代替がうまく行くかは微妙なところだろう。特に我々日本人はこの銀行の顛末を見ているだけに、いっそう懐疑的にならざるを得ない気がする。


一方、naked capitalismのイブ・スミスは、現行のオバマ政権のバッドバンク設立による銀行救済案を厳しく批判しているトリアージを標榜しながら、結局、味噌も糞も一緒に救済することになる、これでは失われた15年を招いた日本の銀行救済手法と変わらないではないか、という批判である。このスミスの批判については、クルーグマンスティーブ・ワルドマンも自ブログからリンクを張って同意を示している。
なお、ワルドマンは、その一つ前のエントリでは、「決してゾンビに餌を与えないでください」という小見出しを付けて、どんなに懇請されても駄目な銀行を助けてはならない、と主張している。そして、駄目な銀行は国有化し、その株式は全国民に等しく頒布すべし、とかつての東欧やロシアでの民営化を想起させる手法を提案している。


ローマー、スミス、クルーグマン、ワルドマンのいずれも、既存の銀行にだらだらと税金を投入して助けるのではなく、場合によっては国有化して大鉈を振るうことを主張している。それは、日本人が米国はそうするだろう、と思っていた手法である。しかし、彼らが同時にオバマ政権のやり方を批判しているということは、現実はその方向に進んでいない証でもある。となると、今の米国は、本来は反面教師であるはずの日本の銀行救済と同じ道を歩んでいるのだろうか…。

*1:というわけで、本エントリのタイトルもそれにちなんだ。余談だが、日本人経済学者の論文でその原題を使ったものがあるそうだ。結構経済学者にもレオーネファンが多いのか。[2009.3.11追記]クルーグマンこのブログエントリのタイトルに使っていた。
さらに余談。デロングはこの映画のテーマ曲をずっと荒野の七人のものと思い込んでいたそうだ。そして荒野の七人のテーマ曲をボナンザのものと、ボナンザのテーマ曲をGunsmokeのものと思い込んでいたとの由。