IQテストの成績にはモチベーションも重要

という主旨の論文がProceedings of the National Academy of Sciences誌に出版され、サイエンス誌のサイトでその内容が紹介されている(Marginal Revolution経由)。ネット上では既に日本語によるまとめも上がっている。


それによると、著者のペンシルベニア大学の准教授のアンジェラリー・リー・ダックワース(Angela Lee Duckworth)氏率いる研究チームは、2種類の分析を行ったという。といっても、自らが新たな実証を実施したわけではなく、従来の研究結果を改めて分析し直してみた、ということのようだ。


そのうちの最初の研究内容は、サイエンス誌記事によれば概ね以下の通り。

  • これまでなされた46の研究分析の「メタ分析」を実施。分析対象の被験者は総計2000人以上に上る。
  • 分析目的は、金銭的動機がIQスコアに与える影響。
  • 金銭的報酬は、1ドル未満から10ドル以上までの範囲に亘った。彼らはHedge's gと呼ばれる統計量を計算し、インセンティブがIQスコアに与える影響度を測った。0.2以下のg値は小さく、0.5は普通、0.7以上は大きい、というのが目安。
  • 平均的な効果は、0.64であった(100を基準とするIQ試験では10ポイント近い値に相当する)。g値が極端に高い3つの研究を対象外としても、その平均値は0.5を超えた。
  • 報酬額の多寡もIQスコアに大いに効いた。10ドル以上の報酬は、1.6以上のg値をもたらした(IQにして20ポイント以上に相当)。一方、1ドル以下の報酬は、その1/10程度の効果しかもたらさなかった。
  • サイエンス誌記事では触れていないが、論文の要旨や上記の日本語のまとめ記事によると、元々のIQが低い者ほど効果が大きかった、とのことである。


一方、彼らの2番目の研究で再分析の対象としたのは、1980年代末にウィスコンシン大学マディソン校の研究チームがピッツバーグの少年500人以上(当時の平均年齢は12.5歳)に対して実施したIQテストと、そのおよそ12年後に実施した追跡調査の結果である。追跡調査では251人が学歴や職歴についてのインタビューに応じることを受諾したとの由(インタビューに応じた被験者と応じなかった被験者の間には、IQを初めとする属性に大きな差は無かったという)。
このウィスコンシン大学の研究で特徴的なのは、最初のIQテストの最中に受験の模様をビデオテープに収録し、それを退屈やモチベーションの欠如のサイン(欠伸、テーブルに頭をもたれる、きょろきょろと部屋を見回す、等)を読み取ることに長けた人たちが分析して、各人のモチベーションの点数を付けたことにある。


ダックワースらが一連のコンピュータモデルを構築して再分析したところ、モチベーションの差は、IQに有意に効くと同時に、IQが後の人生での成功をどれだけ良く予測するかについても有意に効くことが判明したという。具体的には、モチベーションの水準の差は、学校の修了年数や職探しの成否について、84%の説明度を有したとのことである。その一方で、ティーンエイジャー時代の学業成績については、モチベーションは25%しか説明しなかった。このことは、IQテストや学業において生まれながらの知性がやはり重要な役割を果たしていることを示している、と研究者たちは言う。だが、それと同時に、成功への意欲――テストに対してであれ、人生に対してであれ――がIQテストには反映されている、というのが彼らの結論である。