ニューケインジアンとオールドケインジアンは何が違う?

道草で既に関連エントリが訳されている通り(ここここここ)、1月の雇用が良かったことがオールドケインジアンへの反駁になるかどうかを巡ってタイラー・コーエンとクルーグマンが衝突した。


この件に関してのコーエンの取りあえずのまとめはこちらだが、その追記でリンクしているエズラ・クラインのコメントが、学界の外からのコーエンへの良い反論になっているように思われる。


クラインの指摘は以下の3点。

  • コーエンは今回の雇用増加で景気回復が確固としたものになったと受け止めているようだが、その根拠は? 直近4ヶ月(10-1月)の雇用増加は平均17.8万であったが(10月は11.2万)、2011年の最初の4ヶ月の平均は20.6万だった。
  • ニューケインジアンモデル対オールドケインジアンモデルの詳細な議論は自分には難し過ぎるが、次のことは指摘しておきたい。悪名高いバーンスタイン=ローマー論文では、大規模な財政刺激策抜きでもそれなりのスピードで景気が回復することを想定していた。論文は明らかに楽観的過ぎたが、そのことは同時に、財政刺激策支持派も、政府の支え無しに経済が自律回復するモデルを想定していたことを意味する。
  • コーエンが新旧のケインジアンが現在の経済の分析においてどのように違うと考えているのか知りたい。彼の批判する人々の考えは概ね次のような感じだろう:「経済にはある程度の勢いは付いてきたものの、雇用税の減税をもっと大幅なものにし、州や地方政府への援助を増額し、インフラ整備への支出を増やし、FRBからのより強力な成長へのコミットメントを取り付け、増税を含む長期の財政赤字削減案を可決し、欧州がうまくいくことを願えば、回復はより確かなものとなるだろう。」このうちのどれにニューケインジアンは反対するのか?


また、Economist's ViewのMark Thomaもここでコーエンに異論を唱えている*1ほか、こちらでは、景気回復は遅々たるものみんなケインジアン政策が悪いんや、と主張するジョン・テイラーと、景気回復は確固としたものでそれはケインジアン政策の失敗を意味する、と主張するコーエンは是非討論してほしい、と皮肉ったノアピニオン氏にリンクしている。


なお、コーエンは上記エントリで、ニューケインジアンはオールドケインジアンに比べ平均回帰の傾向について楽観的、と両者の違いを簡潔にまとめている。要は、動学化されていない静学的モデルなので時間概念が不明確、ということが彼のオールドケインジアンへの不信の根底にあるように思われる。

*1:一つには、コーエンがStephen Williamsonをこの件に関する権威として扱ったことが、最近Williamsonからヘイトメールを受け取ったというThomaの癇に障ったようだ。ちなみに、Thomaはニューケインジアン的立場から財政政策支持を訴えているにも関わらず、Williamsonは彼を一貫してオールドケインジアン扱いするとの由。