WSJブログ記事*1を紹介する形で本石町日記さんがつぶやいていたが、ピーターソン国際経済研究所のジョセフ・ギャニオンとDEショーのブライアン・サックが、同研究所サイト上の論文において、新しい金融政策の枠組みを提案している。
論文では、危機時のみならず通常モードに復帰した後もFF金利がIOR(準備預金への付利)より下方に乖離したままなので、もはやFF金利に頼るのは危険、という趣旨のことを述べている。本来は、FF市場で借り入れを行って準備預金に預ければ、無リスクでFF金利とIORの鞘が取れるので、両者は裁定取引により十分近くなるはずである。しかし、実際にはそうなっていない。その理由について、論文では概ね以下のような説明を提示している:
- 政府支援機関(GSE)をはじめとするFF市場の大口の貸し手は、IORを受け取る資格が無い。そのため銀行は、それらの機関から借り入れを行い、借入金を準備預金に預ければ、上述の裁定取引を実行したことになる。しかし、以下の要因により、その裁定取引において銀行はイールドスプレッドを要求する:
この状況下では、FRBがIORを上げ下げしても――特にゼロから離れていく方向に動かしたときに――FF金利をはじめとする短期金利が追随することは当てにできず、FRBの金利のコントロール能力に問題が生じ得る、と論文は指摘する。
論文はまた、FF市場はそもそも市場が小さく、参加者が限られている、という点も指摘している。本来は銀行間の市場だったが、大量の超過準備により銀行にとっての必要性は乏しくなり、今日では政府支援機関から銀行への貸し出しが主たる活動の市場となってしまった。
そこで論文が提案するのが、リバースレポ金利を操作目標とする政策である。それを提案する理由の一つが、リバースレポならば市場参加者が多い――プライマリーディーラー、投信、政府支援機関も含まれる――という点にある。また、FRBとオーバーナイトのリバースレポ取引を行うということは、FRBに準備預金を預けて金利を支払ってもらうことと似ており、これは事実上IORをより幅広い市場参加者に支払うことに他ならない、と論文では述べている。
この論文はMostly Economicsも紹介しているが、インド準備銀行がFRBのようになろうとしている時にFRBがインド準備銀行のようになろうとしている――インド準備銀行は2010年にレポ金利一本に絞るまでリバースレポ金利とレポ金利の二本立てで運営していたので――という感想を漏らしている。
*1:cf. 日本語版、および関連記事(日本語版)。