ストレス下のブランド:シカゴ学派の経済学者は大不況中にケインジアンになったか?

というSSRN論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「A Brand Under Stress: Did Chicago School Economists Become Keynesians During the Great Recession?」で、著者はGabriel Russ-Nachamie(デイビッドソン大)。
以下はその要旨。

In this paper, I examine whether Chicago School economists revised their long-standing opposition to fiscal stimulus during the Great Recession. I construct a historical narrative from a corpus of primary documents spanning January 2007 to December 2012. I include an economist in my sample if they meet three criteria: i) obtained a PhD in economics from the University of Chicago; ii) held a tenured professorial appointment in economics or finance at the University of Chicago before January 1, 2007, and during 2007-2012; and iii) publicly identified as a member of the Chicago School of Economics. I find that economists in my sample largely opposed fiscal stimulus during the Great Recession.
(拙訳)
本稿で私は、大不況の中で、シカゴ学派の経済学者が財政刺激策に反対する長年に亘る立場を見直したかどうかを調べた。私は、2007年1月から2012年12月に掛けての一次資料の集積から過去のナラティブを構築した。サンプルには3つの基準を満たした経済学者を含めた。i) シカゴ大から経済学博士号を取得、ii) 2007年1月以前、および2007-2012年にシカゴ大で経済学もしくはファイナンスの終身在職権付きの教授職を有している、iii) シカゴ経済学派に属していると公けに認められている。私のサンプルの経済学者は概ね大不況中に財政刺激策に反対したことを私は見い出した。

本文を斜め読みすると、ゲーリー・ベッカー、ロバート・ルーカス、ユージン・ファーマ、ケイシー・マリガン、ケビン・マーフィーといった、かつて本ブログでクルーグマンやデロングらとのバトルを紹介したお馴染みの名前が挙がっている*1(ただしこのうちマーフィーはクルーグマンやデロングらにそれほど批判されていない)。
なお、ルーカスについては、リカードの中立命題とウォレスのモジリアニ=ミラー定理は等価なのか? - himaginary’s diaryなどで紹介したように、必ずしも財政政策に反対していない、という見方もある。そのほか、シカゴ大で教鞭を取っていないので今回の論文では対象外になっていると思われるが、コチャラコタ(1987年にシカゴ大で博士号を取得)のようにかつては金融タカ派だったがその後ハト派に転じ、最近は財政政策の効用を支持するような研究を出している人もいるので、シカゴ学派の学者がケインジアン的になることがまったくないわけでもないように思われる*2

*1:cf. 経済学を知らないノーベル経済学賞有力候補 - himaginary’s diaryあっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ - himaginary’s diary水戦争・続き - himaginary’s diaryデロングのコチャラコタへの疑問 - himaginary’s diary七人のエコノミスト侍…(違 - himaginary’s diary効率的市場仮説と合理的期待形成:シカゴ学派の中位値的(?)見解 - himaginary’s diary需要の季節性と雇用の需要制約 - himaginary’s diaryモデル戦争 - himaginary’s diaryロバート・ルーカスは需要不足を認めていないのか? - himaginary’s diary住宅ローン金利の税控除の経済的意味 - himaginary’s diaryロバート・ルーカスの矛盾? - himaginary’s diaryリカードの中立命題を巡る紛糾・再燃 - himaginary’s diary第二ファウンデーション - himaginary’s diaryFRBは金利をコントロールしているのか? - himaginary’s diary皮肉と科学 - himaginary’s diaryサンダース経済分析騒動・余聞 - himaginary’s diary]、リカーディアンとリカーディアンもどきとFTPL - himaginary’s diary動学的ファーマン比率 - himaginary’s diary

*2:cf. ミネアポリス連銀の調査部門で何が起きているのか? - himaginary’s diaryコチャラコタ変心の理由を語る - himaginary’s diary財政拡大余地はあるのか? - himaginary’s diary確率的な経済における無期限の債務借り換え - himaginary’s diary公的債務バブル、流動性、およびリスク:ゼロベータ金利に基づく政策評価 - himaginary’s diary。ちなみにシカゴ学派と言えるかどうかは分からないが、ミネアポリス連銀でのコチャラコタの後任のカシュカリも、就任時はタカ派的な姿勢をクルーグマンやデロングに批判されたが(貸し借り無しの経済を求めるカシュカリ - himaginary’s diary)、その後はハト派的な姿勢を見せ、デロングらに支持されている(ジム通いと日銀の刺激策 - himaginary’s diary大インフレ期の教訓は読み間違えられたのか? - himaginary’s diary)(ただし昨年12月の利下げには反対している米経済「堅調な成長続く」、インフレは鈍化へ=ミネアポリス連銀総裁 | ロイターも参照)。