なぜ債務GDP比率を気にする?

というNBER論文が上がっている(H/T タイラー・コーエン昨年5月時点のWPへのリンクがある著者の一人の大学のページ)。原題は「Why Care About Debt-to-GDP?」で、著者はJonathan B. Berk(スタンフォード大)、Jules H. van Binsbergen(ペンシルベニア大)。
以下は過去40年に債務GDP比率が英国は倍、米国は3倍、日本は4倍になったことを示す論文の図。

以下は米国について債務GDP比率以外に2つの債務指標(債務株式比率、利払い費GDP比率)を描いた図。後者の2指標は現在最高水準にあるわけではなく、債務株式比率はむしろ低下傾向にある。

19か国について集計しても同様の結果が得られる(19か国はアルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、メキシコ、オランダ、ロシア、スペイン、スウェーデン、英国、米国)。

この結果について論文では以下のように考察している。

  • 債務GDP比率はストックとフローの比率である。ストックとフローの比率を使うのは経済学者にとって異例のことではないが、そうした比率が有用であるためには強い定常性の仮定が必要となる。債務GDP比率の場合は、債務とGDPが共和分関係にあることが重要な仮定になる。最近の成長と金利の長期トレンドに鑑みると、データでその仮定が成立している可能性は低い。
  • 長期トレンドが存在する非定常的な世界では、フローとフロー、ストックとストックの比率の方が有用だろう。例えば成長の変化は株式の評価と政府の債務利払いの両方に反映されるだろう。また、企業価値(将来のキャッシュフローの現在価値)は課税可能な将来のキャッシュフロー(資産)の重要な指標である。
  • コーポレートファイナスとマクロ経済学の両方で、完全に合理的な主体のいる完全市場では債務水準は実質的な結果に影響しない、という結果が出ている。その結果は、コーポレートファイナンスではモジリアニ=ミラーの命題、マクロ経済学ではリカードの中立性として知られている*1。どちらの命題も実証結果を完全に説明しないことを経済学者は確認している。ただ、そこから両者の研究は分岐している。
    • コーポレートファイナンスでは、どの仮定が成立していないかの識別を追究し、その洞察を企業の資本構造の決定を精緻化して債務の最適水準を導出するのに用いた。
    • マクロ経済学では、リカードの中立性は導出のための強い仮定の結果と見做された。実際にその仮定が成立するとはほとんど誰も考えなかったため、どの仮定によって理論が実証面で成立しなかったかが追究されることは無かった。そのため、政府債務は経済成長と債務不履行の可能性の両方にとって重要、という一般的な概念は展開されたものの、アルゼンチンのような見たところ低い債務GDP比率(40%)で債務危機が発生し、同比率が250%に達する日本がそうした危機に直面していないように見える理由についてあまり理解が進んでいない。
  • リカードの中立性の不成立をもたらした主要な仮定からの乖離を識別しない限り、どの債務指標がこの問題について有用かを決定することはできない。政府の債務不履行が経済の悪化と関係しているのは誰しもが認めるところだが、完全市場ではその因果関係は一方向ではない。
    • 例えばコーポレートファイナンスでは、完全市場における企業の債務不履行と企業の経済的な苦境の因果関係を推定するためには、何らかの摩擦が必要となる。そのため、既存の研究はそうした摩擦の識別とその大きさの評価に注力してきた。