というNBER論文が上がっている。原題は「Genius on Demand: The Value of Transformative Artificial Intelligence」で、著者はAjay K. Agrawal、Joshua S. Gans、Avi Goldfarb（いずれもトロント大）。
以下はその要旨。
This paper examines how the emergence of transformative AI systems providing ``genius on demand" would affect knowledge worker allocation and labour market outcomes. We develop a simple model distinguishing between routine knowledge workers, who can only apply existing knowledge with some uncertainty, and genius workers, who create new knowledge at a cost increasing with distance from a known point. When genius capacity is scarce, we find it should be allocated primarily to questions at domain boundaries rather than at midpoints between known answers. The introduction of AI geniuses fundamentally transforms this allocation. In the short run, human geniuses specialise in questions that are furthest from existing knowledge, where their comparative advantage over AI is greatest. In the long run, routine workers may be completely displaced if AI efficiency approaches human genius efficiency.
（拙訳）
本稿は、「天才オンデマンド」を提供する転換的なAIシステムの出現がどのように知識労働者の配分と労働市場の帰結に影響するかを調べた。我々は、既存の知識を幾ばくかの不確実性を以って適用することしかできないルーチン業務を行う知識労働者と、既知の時点からの距離に応じて増加する費用を対価として新たな知識を創造する天才労働者とを区別する単純なモデルを構築した。天才の能力が欠乏している時は、既知の回答の中間点よりも領域境界における問題にそれは主として割り当てられるべきであることを我々は見い出した。AI天才の導入は、その配分を根底から転換する。短期では、人間の天才は、彼らのAIに対する比較優位が最大となる、既存の知識から最も遠い問題に特化する。長期では、AIの効率性が人間の天才の効率性に近くなるならば、ルーチン業務を行う労働者は完全に置き換えられであろう。
著者の3人は9年前に機械知能の簡単な経済学 - himaginary’s diaryで紹介したブログ記事を書いている。またAgrawalは最近転換的なAIの経済学のための研究計画 - himaginary’s diaryで紹介した論文を共著している。Gansについては本ブログでは各種の著述を紹介してきたが、最近はAIに関するNBER論文を良く上げている（本ブログでは紹介し切れていない）。
オンデマンドで映画を見るように、AIによる天才的な閃きが端末からのリクエストで得られる、というのは興味深い話だが、本当に実現するかどうか、実現したとしてこの論文の予言通りの展開になるかどうかは未だ不確実性が大きくて良く分からない、というのが実際のところかと思われる。
