成長促進策の限界と可能性

6/1エントリで紹介したエルメンドルフらの論文のまとめ記事をTobin Center for Economic Policyが上げている(H/T タイラー・コーエン)。
以下はコーエンが引用した箇条書きの概要。

  • 生産性成長を通じて債務GDP比率を安定化させるためには、非現実的な高成長率が必要
    • 生産性成長率が今後30年を通じてCBO見通しよりも0.5%ポイント高ければ債務GDP比率は安定化する。2025年の税制法案が成立すればさらに高い生産性の成長が必要。
  • 成長促進策だけではそれは達成できない
    • 調べた7つの成長促進策を足し合わせても、それに伴う財政コストを埋め合わせて、かつ、財政赤字を有意に削減するのに十分な生産性成長率の増加が得られるという証拠は見い出されなかった。
  • 増税と歳出削減が必要にせよ、成長促進策は痛みを和らげることができる。
    • それらの政策の中には成長を押し上げるものもあり、その中には財政コストが低いためにGDPに比べて債務の経路を低く留めるものもある。高技能労働者の移民を増やすことや、住宅建築の制約を緩和することなど。
  • 成長を促進する規制の変化は特に有望
    • その中にはインフラ許認可の改正など規制緩和もあるが、送電の改善のための連邦の介入など規制を強化するものもある。その一方で減税は直接的に財政赤字を拡大し、その赤字増加を相殺するだけの大きな影響を成長に及ぼすことは非常に稀。

以下は(コーエンが引用しなかった)政策的含意のまとめ。

  • 分析者は、成長促進的な政策の変更によってどれだけ経済成長が高まるかについて現実的であるべき
    • 効果を過小評価もしくは過大評価することは無益な道につながり、やがて経済分析への信頼も損なわれる。
  • 政策を大掛かりに継続的な形で始めるのではなく、後戻りできる形で小さく始めれば、予期せぬ展開に対して政策当局者が調整する余地が生まれる
    • 政策変更の効果の推計は本質的に不確実なものであり、従って実験と適応が正当化されるが、思考停止は正当化されない。
  • 経済成長の変化の大きさに応じて税と歳出も調整するような創造的な政策変更を分析者は追究すべし
    • 例えば既存の社会保障給付の式は退職者に経済成長からの大きな利得を提供しており、そのフィードバックをカットすれば成長の債務抑制効果が大きくなる。
  • 今回の論文は政策の経済成長と債務への影響だけに焦点を絞っているが、政策のそれ以外の影響(安全保障や気候変動への影響など)も政策担当者は目配りすることになる
  • 知識のギャップを埋めて新たな解決法を明らかにするための研究が必要
    • 例えば住宅政策において、既存の研究は、特定の連邦政策の変化が経済と財政に及ぼす影響の推計値を提供していない。住宅政策、住宅建設、および経済成長の間の関係を定量化する研究は、新たな政策の解決策を明らかにする可能性がある。

何だか住宅政策にやや偏ったまとめで、かつ、移民の効果をやや過大に見せているように見える*1ほか、小生が注目した研究開発への補助が等閑視されているという気がしなくもないが、減税の限界については日本で昨今叫ばれている消費減税論に照らして一考の余地があろう。

*1:論文では、20万人の高技能移民を追加しても、25年後の生産性が最大0.053%ポイント上昇するに過ぎず、30年後の実質GNPが1%大きくなり、債務GDP比率が2ポイント小さくなるに過ぎない、という推計結果を示している。移民を1回だけではなく10年間毎年20万人入れれば効果は10倍になるが、その効果が達成されるまでさらに10年掛かるとの由。また、人口増そのものが財政赤字減に寄与するともしているが、その話は生産性成長への効果とは別ということになる。