米財政政策を維持可能な経路に乗せる

というNBER論文をダグラス・エルメンドルフらが上げている。原題は「Putting US Fiscal Policy on a Sustainable Path」で、著者はKaren Dynan、Douglas Elmendorf(いずれもハーバード大)。
以下はその要旨。

Even allowing for substantial uncertainty regarding projections, current US fiscal policies are almost certainly unsustainable. Therefore, policymakers must decide when and in what ways to change policies. Changing policies sooner rather than later would put debt on a lower trajectory and thereby increase national savings and provide insurance against adverse developments by expanding fiscal space, protecting against a persistent shortfall in economic growth, and reducing the chance of a fiscal crisis. Yet, the probability of a near-term fiscal crisis is difficult to assess: Yields on Treasury debt are within their range of the past few decades, which suggests that investors are not that worried about the fiscal outlook—but debt and deficits are at nearly unprecedented levels, and experience shows that investors’ confidence in a government’s fiscal management can deteriorate quickly.
(拙訳)
見通しに関する顕著な不確実性を許容したとしても、現在の米国の財政政策はほぼ確実に維持不可能である。従って、政策担当者は政策を変更する時期と方法を決定しなくてはならない。政策を変更するのが早いほど、債務はより低い経路を辿り、それによって国の貯蓄を増やし、財政拡大により生じる悪しき展開に対する保険を提供し、経済成長が継続的に不足することからの保護を提供し、財政危機の可能性を減じる。とは言え、近い将来に財政危機が起こる確率を評価するのは難しい:国債利回りは過去数十年の範囲内に収まっており、投資家が財政の見通しにそれほど懸念を抱いていないことを示している。だが、債務と財政赤字は前例の無い水準近くにあり、経験によれば投資家の政府の財政運営への信頼は急速に悪化し得る。

エドワード・コナードによるまとめ記事では、見通しの悪化要因を以下のように説明している。

  • 現在の債務の見通しは現行法下の2007年の見通しよりかなり高い。
  • その変化の原因は、高齢化と医療支出の影響が予想より大きかったためではない。実際のところ、医療支出は2007年時点の予想ほど増えず、2020年から2025年に掛けての債務の伸びの見通しを押し下げる要因になっている。
  • 債務拡大要因は、2012年と2017年の減税(2012年の減税では2001年と2003年に一時的として導入された減税の大半を恒久化した)、および、2つの大きな景気後退とそれへの政策対応である。

昨年12月11日のエルメンドルフの議会証言でも今回の論文の主旨に沿った証言がなされており、債務GDP比率を現在の水準で安定化させるためには毎年GDPの2%強、およそ6000億ドルの政策変更が必要、と述べている。2017年の減税を財源手当て無しに延長するならば額はさらに大きくなるとのことである。これを歳出削減と増税のどちらかで埋めようとするとあまりにも影響が大きいので、両者を組み合わせるしかない、とエルメンドルフは主張する。ただし、一部の人が削減を提言しているメディケイドは、ナーシングホーム*1の費用のほぼ半分を負担しており、また、子供たちへのメディケア給付は今の彼らを助けるのみならず成人時の収入と納税額を押し上げている、とエルメンドルフは警告する。さらに、インフラ支出や研究支出を削減すると経済発展を妨げるし、中産階級以下の米国人への給付を削減すると経済で最も苦闘している人々を傷付けることになる、とも警告している。従って、支出を効率的かつ公平に削減するのは難しい、とのことである。
増税も人々の労働、貯蓄、投資への意欲を削ぎ、経済発展を妨げるので、効率的かつ公平に行うのは難しい、とエルメンドルフは述べているが、同時に、2024年の税収はCBO見積もりによればGDPの17.0%で、社会保障を受給している米国人が今より遥かに少なくメディケアがまだ存在していなかった1962年と全く同じ比率、と指摘している。
以下は議会証言で示されている図。

このエルメンドルフの主張はいわゆる緊縮派ということになると思われるが、支出削減や増税の悪影響にもきちんと目配りをしているので、ひたすら緊縮だけを唱えている人々とは一線を画していると言えるかもしれない。とは言うものの、だから難しいね、でもやらなくてはね、だけではあまり有用な提言とは言えない気もする。