スイスの国内重視銀行における金利リスクの事例

というスイス国立銀行ノートをMostly Economicsが紹介している。原題は「The case of interest rate risk at domestically focused banks in Switzerland」で、著者はJayson Danton、Stéphane Riederer 。
以下はその要旨。

A fundamental economic function of the banking system is maturity transformation. This occurs when banks use short-term deposits (which can be withdrawn quickly by customers) to fund long-term loans (which are typically repaid much later by customers). Maturity transformation creates so-called interest rate risk for banks, as changes in market interest rates can affect their profitability—or even their financial soundness. Managing this risk is particularly important for banks whose business model relies on maturity transformation, which is the case for Swiss domestically focused banks. In this note, we explain why the interest rate increase in 2022 and 2023 was profitable for these banks, while further interest rate increases would have been detrimental due to the materialisation of interest rate risk.
(拙訳)
銀行システムの基本的な経済機能は満期変換である。これは、銀行が(顧客がすぐに引き出せる)短期の預金を用いて(顧客が返済するのは通常かなり後になる)長期の融資を賄う場合に生じる。市場金利の変化は銀行の利益率、あるいは財務の健全性にさえ影響するため、満期変換はいわゆる金利リスクを銀行に生成する。このリスクを管理することは、スイスの国内重視銀行におけるように、ビジネスモデルが満期変換に依拠している銀行にとって特に重要である。本ノートでは、2022年と2023年の金利上昇がそれらの銀行にとって利益をもたらすものであった一方、さらに金利が上昇していれば金利リスクの顕在化によって利益を減らしていたであろう理由を説明する。

本文では、純利息収入を以下の3要素に分解している。

1. 資産マージン(asset margin)
(例えば不動産への)融資金利と、同じ満期の市場金利との差
2. 負債マージン(liability margin)
預金金利と対応する市場金利との差
3. 構造マージン(structural margin)
満期変換に起因するマージンで、純利息収入と、資産マージンと負債マージンの合計との差

利回り曲線(イールドカーブ)が右上がりの順イールドの場合、以下の図のように構造マージンはプラスになる。

しかし、逆イールドの場合は構造マージンはマイナスになり、イールドカーブが平坦な場合はゼロになる。

スイスの2021-23年のイールドカーブと銀行の純利息収入の3要素は以下のように推移した。

即ち、2022年と2023年の金利の変化は国内重視銀行(domestically focused banks=DFB)の純利息収入にプラスの影響を及ぼした。
2022年の改善については2つの主要な要因があり、第一に、図4のイールドカーブの青線と赤線の比較にあるように、金利上昇の三分の一は、単純にマイナスの領域にあった金利をプラスの領域に戻した。第二に、DFBは長く続いたマイナス金利の時期に預金金利にはゼロ下限を適用したが、預金規模は比較的安定していたため、2022年の金利上昇期の大部分においても預金金利をゼロに維持し、図5の赤棒線に見られるように、負債マージンを改善できた。
2023年も年央まで金利上昇が続いたが、それはDFBの純利息収入に2つの影響を及ぼした。一つは、市場金利の変化に比べて預金金利の変化を緩やかにすることにより、負債マージンの改善を続けることができた。その一方で、金利上昇により受取利息よりも支払利息の方が急速に上昇したため、構造マージンは悪化を続けた。ただ、前者の効果が後者を上回ったため、全体の純利息収入はプラスとなった。
ただ、金利がプラスの環境からスタートした場合には話が違ってくる、とノートでは注意喚起している。以下は2023年末のイールドカーブにおいて200bpのパラレルな金利上昇が起きた場合のシミュレーション結果だが、純利息収入はマイナスで推移する。これは、預金金利をもはや市場金利を大きく下回る水準に維持できないためである。

従って、シリコンバレー銀行の轍を踏まないためにも、銀行はバランスシート管理とヘッジツールを活用して金利リスクを管理すべきであり、DFBは実際にそうしている、とノートは最後に結んでいる。

前々回エントリ銀行と金融政策の状態依存型影響 - himaginary’s diaryで紹介した論文は、低金利から出発した時に預金金利に預金者があまり敏感でない半面、高金利から出発するとそうではないことを理論的に説明している。このスイス国立銀行のノートは、期せずしてそれを自国の実際の金利の推移と自行のシミュレーションツールを使って例証した形になっている。