というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者のページ)。原題は「Do Temporary Cash Transfers Stimulate the Macroeconomy? Evidence from Four Case Studies」で、著者はValerie A. Ramey(スタンフォード大)。
This paper re-evaluates the effectiveness of temporary transfers in stimulating the macroeconomy using evidence from four case studies. The rebirth of Keynesian stabilization policy has lingering costs in terms of higher debt paths, so it is important to assess the benefits of these policies. In each case study, I analyze whether the behavior of the aggregate data is consistent with the transfers providing an effective stimulus. Two of the case studies are reviews of evidence from my recent work on the 2001 and 2008 U.S. tax rebates. The other two case studies are new analyses of temporary transfers in Singapore and Australia. In all four instances, the evidence suggests that temporary cash transfers to households likely provided little or no stimulus to the macroeconomy.
(拙訳)
本稿は、4つのケーススタディの実証結果を用いて、一時的な所得移転がマクロ経済を刺激する効果を再評価した。ケインズ的な安定化政策の復活は、債務経路の上昇という後に残るコストをもたらすため、そうした政策の便益を評価することは重要である。各ケーススタディについて私は、所得移転が効果的な刺激をもたらした、ということとマクロデータの推移が整合的であったかどうかを分析した。ケーススタディのうち2つは、2001年と2008年の戻し減税についての私の最近の研究*1における実証結果の総説である。他の2つのケーススタディはシンガポールとオーストラリアにおける一時的な所得移転についての新たな分析である。4つの事例すべてにおいて、実証結果が示すところによれば、一時的な家計への現金給付はマクロ経済に刺激をあまり、もしくはまったくもたらさなかった可能性が高い。
この論文は昨年11月14-15日のIMFの25回目のジャック・ポラック(Jacques Polak*2)コンファレンス「Rethinking the Policy Toolkit in a Turbulent Global Economy」におけるマンデル=フレミング講演に基づくもので、IMF Economic Reviewに掲載予定とのこと。
結論部では、税制変更による大きな乗数効果を見い出したローマー=ローマー(2010*3)などの研究と自分の結果は矛盾するものではない、と指摘している。というのは、自分の研究は一括の所得移転を対象にしているのに対し、それらの研究は歪んだ税制の変更を対象にしているから、とのことである。Rameyは、Axelle FerriereとGaston Navarroの最近の研究を引きながら、税制の歪みを拡大するような財政再建はGDPの観点から高く付くかもしれない、と警告している。
また、今回の結果の一般性については、自分のケーススタディは先進国が対象だったので低中所得国にはそのまま当てはまらないかもしれないが、そこで取り上げたのと同様の問題は他の経済や他の状況でも影響するだろう、と述べている。そのほか、コロナ禍は特殊な状況なのでケーススタディの対象にしなかった、と断っている*4。
*1:マクロの反実仮想を用いた尤もらしさの評価:2001年の戻し減税の限界消費性向を用いた説明 - himaginary’s diaryで紹介した論文(Economic Journal掲載予定)と、そのエントリでリンクした2008年の戻し減税を分析した論文(掲載版=Micro MPCs and Macro Counterfactuals: The Case of the 2008 Rebates* | The Quarterly Journal of Economics | Oxford Academic)。
*2:Jacques J. Polak - Wikipedia。
*4:コロナ禍支援はどの程度効果的だったのか? - himaginary’s diaryで紹介した論文ではRameyの研究も参照されていたが。