というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人のページ)。原題は「The Nonlinear Effects of Air Pollution on Health: Evidence from Wildfire Smoke」で、著者はNolan H. Miller(イリノイ大)、David Molitor(同)、Eric Zou(ミシガン大)。
以下はその要旨。
We estimate how acute air pollution exposure from wildfire smoke impacts human health in the U.S., allowing for nonlinear effects. Wildfire smoke is pervasive and produces air quality shocks of varying intensity, depending on wind patterns and plume thickness. Using administrative Medicare records for 2007–2019, we estimate that wildfire smoke accounts for 18% of ambient PM2.5 concentrations, 0.42% of deaths, and 0.69% of emergency room visits among adults aged 65 and over. Smaller pollution shocks have outsized health impacts, indicating significant health benefits from improving air quality, even in areas meeting current regulatory standards.
(拙訳)
我々は、米国の山火事による激しい大気汚染がどのように人々の健康に影響するかを、非線形効果を許容しつつ推計した。山火事の煙は拡散し、風のパターンや噴出の密度に依存する形で様々な強度の大気の質へのショックをもたらす。2007-2019年の行政のメディケアの記録を用いて我々は、山火事の煙が環境におけるPM2.5の濃度の18%、65歳以上の成人の死亡の0.42%、緊急救命室搬送の0.69%を説明すると推計した。小規模の大気汚染ショックの方が健康に及ぼす影響は並外れて大きく、現在の規制基準を満たしている地域においてさえ大気の質を改善することによる顕著な健康上の利益を示している。
以下は影響を示したグラフ。
地上のPM2.5濃度は煙ショックを受けた日に急激に上昇し、影響はおよそ3日間持続する。噴煙の直下ではないが近くの郡では、3日間のPM2.5水準が距離次第で0.5-3.2µg/m3(煙の無い日の平均の5-35%)と小幅に上昇する一方で、直下の郡では煙の密度次第で5.2-14.4µg/m3(煙の無い日の平均の58-158%)上昇する。煙ショックの頻度と人口ウエイトを加味すると、日次の平均の煙の影響は1.65µg/m3で、米国民に影響する環境PM2.5濃度の18%を占めるとの由。
死亡率とER搬送はショックから3日間高まるが、死亡率が徐々に高まって2日後にピークを迎えるのに対し、ER搬送の上昇は当日で、翌日も25%程度の影響が持続する。いずれもその後の反動減はなく、何らかの影響が早まった効果ではないことを示している。100万人当たりで死亡は0.51、ER搬送は9.7高まり、サンプル中の240の死亡のうちの一つ(0.42%)、145のER搬送のうちの一つ(0.69%)を占めている。2019年の米国の65歳以上人口5410万人に引き直すと、10,070の早過ぎる死と191,541の余計な救急搬送ということになる。
煙によるPM2.5濃度が6µg/m3に達するとC-R(濃度ー反応)曲線は平坦ないしむしろ僅かに右下がりになり、それより大きなショックによる追加的な損害がないことを示している。逆に、それより小さなショックの追加的な影響は大きく、C-R曲線が強く凹型であることを示しているとの由。