配当課税と資本の配分

というNBER論文が上がっている2021年時点のWPへのリンクがあるプリンストン大の紹介記事)。原題は「Dividend Taxes and the Allocation of Capital」で、著者はCharles Boissel(HECパリ)、Adrien Matray(プリンストン大)。
以下はその要旨。

This paper investigates the 2013 three-fold increase in the French dividend tax rate. Using administrative data covering the universe of firms from 2008-2017 and a quasi-experimental setting, we find that firms swiftly cut dividend payments and used this tax-induced increase in liquidity to invest more. Heterogeneity analyses show that firms with high demand and returns on capital responded most while no group of firms cut their investment. Our results reject models in which higher dividend taxes increase the cost of capital and show that the tax-induced increase in liquidity relaxes credit constraints, which can reduce capital misallocation.
(拙訳)
本稿は、フランスで2013年に配当税率を3倍に引き上げた事象を調べる。2008-2017年の企業の母集団をカバーした行政データ、および疑似実験的な枠組みを用いて我々は、企業は配当支払いを速やかに削減して、税に起因して増加した流動性を投資を増やすことに使ったことを見い出した。異質性分析が示すところによれば、資本の需要と収益率が高い企業が最も大きく反応し、投資を削減した企業集団は無かった。我々の結果は、高い配当課税が資本コストを引き上げるというモデルを棄却し、税に起因する流動性の増加が信用制約を和らげ、それによって資本の誤配分が減る可能性があることを示した。

紹介記事からポイントを抜き書きすると

  • 配当税率は15.5%から46%に引き上げられた。
  • 平均的な企業は増加した流動性の20%を再投資に回し、80%をバランスシート拡大に充てた。後者は企業貯蓄の増加(50%)と顧客への信用の拡大(30%)に分解できる。
  • 推進派が恐れた税回避行動は見られなかった。
  • 株式に頼る企業は新株発行で投資費用を賄うため、配当税率の上昇は株主の要求収益率を引き上げる。しかし、株式に頼る企業の集団に焦点を当てても、投資を減らす傾向はみられなかった。これは配当減税が成長を促すという議論に疑問を投げ掛ける結果である。
  • 全般的に起業家は配当を支払い過ぎて財務制約がきつくなっていることが研究結果から示された。これは、起業家の見通しは平均して正しいという通常の経済モデルとは違って、起業家は将来の投資需要の予測に苦労し、短期のために長期の発展を犠牲にすることもある、ということを示している。