クレジット・ホライゾン

というNBER論文を清滝=ムーアらが上げているungated版)。論文の原題は「Credit Horizons」で、著者はNobuhiro Kiyotaki(プリンストン大)、John Moore(エジンバラ大)、Shengxing Zhang(LSE)。
以下はその要旨。

Entrepreneurs appear to borrow largely against their near-term revenues, even when their investment has a longer horizon. In this paper, we develop a model of credit horizons. A question of particular concern to us is whether persistently low interest rates can stifle economic activity. With this in mind, our model is of a small open economy where the world interest rate is taken to be exogenous. We show that a permanent fall in the interest rate can reduce aggregate investment and growth, and even lead to a drop in the welfare of everyone in the domestic economy. We use our framework to examine how credit horizons interact with plant dynamics and the evolution of productivity. Finally, we speculate that the measurement of total investment may camouflage the true level of productive investment in plant and human capital, and give too rosy a picture of property-fuelled booms sparked by low interest rates.
(拙訳)
起業家たちは、自分の投資の時間範囲がより長期に亘る場合でも、概ね近い将来の収入を担保に借り入れを行うように思われる。本稿で我々は信用の時間範囲のモデルを開発した。我々にとって特に関心があるのは、持続的な低金利が経済活動を窒息させ得るか、ということである。これを念頭に置いて、我々のモデルは世界金利が外生的となる小規模開放経済を扱った。我々は、金利の恒久的な低下がマクロの投資と成長を減じせしめ、国内経済の全員の厚生を低下させるにまで至ることがあることを示す。我々はこの枠組みを用いて、信用の時間範囲が工場の動学ならびに生産性の推移とどのように相互作用するかを調べた。また我々は、総投資を計測することが工場や人的資本への生産的な投資の真の水準を分からなくしてしまい、低金利がもたらした、資産によって駆動される景気についてあまりにも楽観的な構図を描いてしまうかもしれない、と推測した。

ungated版の本文によると、上記のメカニズムは概ね以下の通り:
工場は年数が経過するに連れメンテナンスコストが増大するので、収入のうち、メンテナンスする人(=起業した技術者)の取り分が増える一方、工場建設に融資する人の取り分は減る。そのため融資者は、建設から間もない短期における収入を担保にせざるを得ない。ただ、固定費は長期に亘って継続的に発生し、それは融資者が負担する。金利が下がると負担する固定費の現在価値が上がり、その増分は短期的な収入の取り分の増分を上回るので、融資のインセンティブは下がる。そのため起業家の借入枠は低下し、投資の一つの重要指標である純資産頭金比率において、分子(純資産)の増加以上に分母(頭金(required downpayment)=投資額-借入額)が上昇する。マクロ経済学ではともすれば金利低下による純資産の増加に目を奪われがちだが、このメカニズムによって低金利は投資にはむしろマイナスに働く。
また総投資額は建物を含むため、低金利は建物の価格を押し上げることにより総投資額を膨らませる。起業家は工場の建物を部分的にでも融資者に売却して資金を手当てできるかもしれない。しかし、建物を除いた融資額は投資額ほどに増えず、工場や人的資本への実質的な融資額は低金利によってむしろ低下する。これが80年代の日本や00年代の南欧で起きたことと考えられる。