経済地理の逆襲

「Economic geography bites back」という小論をブルッキングス研究所のIndermit Gillが書いている。以下はその冒頭部。

Ten years ago, Paul Krugman won the Nobel Prize in Economics, and the World Bank published the World Development Report “Reshaping Economic Geography.” There is never a bad time to win a Nobel Prize, but 2009 might have been the worst year to launch a report on economic geography. It was hard to get people to think about long-term transformations amid the global financial crisis.
Conversely, 2019 may be the best year to talk about economic geography. There is no smoldering crisis, but the world’s economic geography is changing in disconcerting ways. Trade is in retreat, and international flows of capital have dropped to a fraction of what they were a decade ago. In India and Africa, cities are getting clogged with people and pollutants. In Europe and the U.S., the sentiment towards migrants has turned hostile and is deepening political divisions. China has been cementing trade and investment relations with its neighbors, coaxing them into adopting a “Chinese model of development” and making others nervous. New technologies promise—or threaten—to radically alter the shape and size of cities, regions, and international trade.
(拙訳)
10年前、ポール・クルーグマンがノーベル経済学賞を受賞し、世銀が世界開発報告「変わりつつある世界経済地理*1を出した。ノーベル経済学賞を受賞するのに悪い時期というのは存在しないが、2009年は経済地理の報告書を公表するのに最悪の年だったかもしれない。世界金融危機の最中に長期的な転換について人々に考えてもらうのは難しいことだ。
逆に、2019年は経済地理について話すのに最良の年かもしれない。燻っている危機は存在しないが、世界の経済地理は不穏当な形で変わりつつある。貿易は落ち込み、国際的な資本移動は10年前の何分の1かに低下した。インドとアフリカでは都市が人々と汚染物で溢れかえっている。欧米では移民への感情が敵対的なものとなり、政治的分裂を深めている。中国は近隣諸国との貿易や投資の関係を固め、「発展の中国モデル」の採用をそれらの国に促し、他国はそれに神経を尖らせている。新技術は都市や地域や国際貿易の形態と規模を劇的に変える展望――ないし脅威――をもたらしている。

この後Gillは、報告書の10周年記念で調査したテーマとして以下の3つを挙げている。

  1. インドの南部の州への急なシフト
    • 経済の重心がインフラ等が整備された南部に移るにつれ、これまで政治経済の中心だった北部との軋轢が懸念される。
  2. 英米での予期せぬポピュリズムの台頭
  3. 中国の大いなる外部伸長
    • 2009年には中国内部での出来事に注目していたが、海外活動にもっと注意を払うべきだった。
    • 制度第一、インフラ第二、というのが従来の優先順位だったが、中国はインフラ第一、制度第二の優先順位で考えている。世銀の世界開発報告は従来の優先順位に従っていた(加えて、第三として、必要ならば、目標を定めた介入、を挙げていた)が、今後見直すべきかもしれない。