スティグリッツ君、もっときちんとDSGEを勉強したまえ

Lawrence J. Christiano(ノースウエスタン大)、Martin S. Eichenbaum(同)、Mathias Trabandt(ベルリン自由大)が「On DSGE Models」という簡潔なタイトルのNBER論文を上げているungated版を見てみると、DSGEを擁護する論文になっており、DSGE批判派の中でも特にここで紹介したスティグリッツに焦点を当てて反論している。以下では、そのスティグリッツへの反論部分を拾い出して箇条書きでまとめてみる。

  • スティグリッツは、危機前のDSGEモデルは金融摩擦、流動性制約下の消費者、および住宅部門を許容しなかった、と主張したが、それは正しくなく、反例が存在する。
  • スティグリッツ(および彼が援用したKorinek*1)は、DSGEは時系列データを扱う際に、HPフィルタなどを使って頻度が景気循環レベルの定常的変動を取り出そうとするが、その際に非定常的もしくはより低頻度の重要なマクロ経済事象を除去してしまう可能性がある、と指摘する。しかし現代のDSGE研究の大半はHPフィルタを通したデータなど使っておらず、非定常性をもたらすものをモデルで定式化した上でデータを当てはめているので、むしろ非定常性に焦点を当てている。
  • スティグリッツ=Korinekは、DSGEはミクロ的実証結果に真っ向から反する制約を数多く置く、と言うが、すべてのモデル(スティグリッツ自身が主唱するモデルを含む)は何らかの形でミクロ的実証結果に矛盾する。しかし、DSGEはそうしたミクロ的実証結果を取り込むことによって発展してきた。純粋RBCモデルの破棄がそうした過程の一例。
  • スティグリッツは、小さなショックが重大な結果をもたらすことを説明できるモデルが適切、としているが、DSGEでそれは可能。
  • スティグリッツは、DSGEでは貨幣需要関数は意味が無く、中銀が金利を操作できることが重要、と言う。ただ、金利としては、中銀が操作する金利ではなく、それと家計や企業が直面する金利とのスプレッドこそが重要、と言うが、そうしたスプレッドが分析で重要な役割を演じるDSGEの研究は存在する。
  • スティグリッツは、大規模なDSGEモデルは線形近似で小さなショックについてしか解けないと思っているが、反例となるモデルが存在する。
  • スティグリッツは、DSGEは危機への対応について処方箋を提供できないと思っているが、反例となるモデルが存在する。
  • スティグリッツは代表的個人の咎でDSGEを批判するが、不均一主体のDSGEモデルの存在を知らないようだ。

*1:cf. ここ