5/19と5/21に紹介したジョブギャランティ論争に、サマーズとクルーグマンも参入した。
サマーズは、ジョブギャランティ計画の理念に大いなる賛意を表しつつも、その実現可能性について以下の3つの疑問符を付けている。
- いくら払うのか
- 何をさせるか
- マクロ経済的な帰結
サマーズは以下のように論説を結んでいる。
It would be terrific if these questions had persuasive answers. But right now, I am inclined to think that the idea of a jobs guarantee should be taken seriously but not literally. A combination of wage subsidies, targeted government spending, support for workers with dependents, and increased training and job-matching programs represent a more viable strategy for meeting demand for guaranteed employment.
(拙訳)
以上の問題に対して説得力のある答えが得られたら素晴らしいことだろう。しかし現時点で私は、ジョブギャランティの理念は真剣に受け止めるべきだが、文字通り受け止めるべきではない、と考えるようになっている。賃金補助、目標を定めた政府支出、扶養家族のある労働者の支援、職業訓練やジョブマッチング計画の拡充、といったことの組み合わせが、保障された雇用への需要に応える、より実行可能性の高い戦略となる。
このようにジョブギャランティの実行可能性を疑問視し、それよりも現実的な政策を求めるというのは、5/19エントリで紹介したTim Taylorと共通した考え方と言える。
この点については、クルーグマンも、サマーズのほか(5/19エントリでリンクした)EPIのJosh Bivensやディーン・ベーカーをジョブギャランティ批判派として取り上げた後で、
And I myself don’t think it’s the best way to deal with the problem of low pay and inadequate employment; like Bivens and his colleagues at EPI, I’d go for a more targeted set of policies.
(拙訳)
そして私自身も、これが低賃金と不適当な雇用の問題に対処する最善の方法だとは思わない。EPIのBivensとその同僚と同じく、より目標を定めた一連の政策の方に私も賛成する。
と同様の見解を示している。その一方でクルーグマンは、アレクサンドリア・オカシオコルテス*2のような候補者がジョブギャランティ政策を掲げるのは、たとえ実現可能性が低くても、賃金や雇用の問題に焦点を当てるという点で良いことであり、とにかく共和党のラリー・クドローやサム・ブラウンバック政策よりもまともな政策である、と述べている。
またクルーグマンは、サマーズが1番目の懸念で示したような、時給15ドルに既存の雇用者が殺到する、という問題は心配には及ばない、としている。
What’s wrong with this argument? The key point is that all those sub-$15 workers aren’t just sitting around collecting paychecks: they’re producing goods and (mostly) services that the public wants. The public will still want those services even if the government guarantees alternative employment, so the firms providing those services won’t go away; they’ll just have to raise wages enough to hold on to their employees, who would now have an alternative.
Now, that doesn’t mean zero job loss. Employers might replace some workers with machines; they would have to raise prices, meaning that they would sell less; so private employment might go down.
But all this is true about increases in the minimum wage, too. And we have a lot of evidence on what minimum wage increases do, because we get a natural experiment every time a state raises its minimum wage but neighboring states don’t. What this evidence shows is that minimum wage hikes have very little effect on employment.
So if we think of a job guarantee as a minimum wage hike backstopped by a public option for employment, we should not expect a mass migration of workers from private to public jobs.
(拙訳)
この議論のどこが間違っているのだろうか? 重要なポイントは、時給15ドル以下の労働者は皆、別にただ座って小切手を貰っているわけではない、ということだ。彼らは、一般に必要とされる財と(大半は)サービスを生み出している。政府が代替的な雇用を保障したとしても、そうしたサービスは引き続き必要とされるため、それらのサービスを提供する企業は無くなりはしない。単に、今や別の選択肢を有する被雇用者を引き留めるのに十分なだけ賃上げをしなくてはならない、ということである。
そのことは、雇用の喪失がゼロであることを意味するわけではない。雇用者側は、一部の労働者を機械で置き換えるだろう。あるいは値上げをするだろう。それによって売り上げは下がり、民間雇用は減少するだろう。
しかし、最低賃金を引き上げた場合も同じことが起きる。そして、最低賃金の引上げで起きることについて我々は多くの実証結果を有している。というのは、ある州が最低賃金を引き上げ、隣の州が引き上げないたびに、自然実験が行われるからである。その実証結果が示すところによれば、最低賃金の引上げが雇用に与える影響は極めて小さい。
従って、ジョブギャランティを、公的な雇用の選択肢で裏付けされた最低賃金の引上げと考えるならば、民間から公的部門に大挙して移動する、ということが起きるとは考えにくい。
ただ、この後にクルーグマンは2つの注意書きを付けている。一つは、時給15ドルは確かに米国の遅れた貧困地域で雇用の大きな損失をもたらすかもしれない、ということである。これは、上記のサマーズがレストラン業界などについて示した懸念と符合するもの、と言える。もう一つは、ジョブギャランティによって現在働いていない人のうちのかなりの人数が労働力人口に復帰する、ということである。それは社会保障的には良いことであり、計画のそもそもの目的でもあるが、彼らの仕事と金を見つける必要がある。これもサマーズが上述の懸念で示していた点であり、その人数を400万と見積もっていたが、クルーグマンは2001年のピーク時の働き盛りの雇用率が現在より約3%高かったことを基に、350万と見積もっている。
*1:4ドル×3000万人×8時間×250日=2400億ドル。