ミルトン・フリードマンの「金融政策の役割」に関する7つの誤謬

という論文(原題は「Seven Fallacies Concerning Milton Friedman’s “The Role of Monetary Policy”」)をFRBEdward Nelson書いている(H/T Mostly Economics)。
この「金融政策の役割」は、フリードマンが自らの1967年12月のAEA会長講演をまとめた1968年の論文のタイトルだが、Nelsonが指摘する同論文に関する7つの誤謬は以下の通り。

  1. 「金融政策の役割」でフリードマンは初めて自然率仮説を公けにした
    • マンキュー=ライス*1をはじめとしてこの見解は良く聞かれるが、誤り。フリードマンは1950年代と60年代に、議会証言などで、完全雇用と物価の安定は長期的に両立可能、という基本的な考えを既に示していた。また、1966年には「自然失業率」という用語をコンファレンスのコメントで用いていた。
  2. フリードマンフェルプスフィリップス曲線サミュエルソン=ソロー(1960)の分析で既に提示されていた
  3. フリードマンフィリップス曲線の定式化は、完全競争と名目硬直性の不在に基づいていた
    • フリードマンは、名目賃金の調整が物価よりも遅れるため、インフレ率が高まる当初は実質賃金は低下する、と述べていた。また、彼の考えに基づくモデルは、物価の調整が即時であることを要求してはいない。
  4. フリードマン(1968)の大恐慌の金融政策の説明は、「金融史」におけるそれと矛盾している
    • カルドアやクルーグマンは、フリードマン(1968)はFRB大恐慌時にマネタリーベースを絞ったと述べたが、それは「金融史」には書かれておらず、しかも1930-33年のマネタリーベースは実際には増えていた、と批判した。だが、フリードマン(1968)において指摘したマネタリーベースの減少は、「金融史」で示された1929-33年の大収縮の直前ないし初期段階のことと思われるので、矛盾してはいない。
  5. フリードマン(1968)は、金融拡張策は失業率と実質金利を自然率以下に20年間に亘って留める、と述べた
    • 定常状態に達するのに20年掛かると述べたのであって、インフレ率を低下させるための非常な高失業率は2〜5年で解消する、と述べている。即ち、金融政策変更の非中立的な影響の大半は2〜5年で解消するということである。
  6. 名目金利のゼロ下限制約は自然率仮説を無効にする
    • その制約は、所与の短期名目金利経路における量的緩和により打破可能、ということは過去10年の各国の実際の金融政策で示されており、フリードマンも、その制約によって金融政策が総需要を刺激できなくなる、という見解を激しく否定した。
  7. フリードマン(1968)の金利固定策に関する考えは、合理的期待革命で反駁された
    • 金利固定策は可能、とフリードマンを批判するマッカラムやコクランは、フィッシャー方程式における次期の期待インフレ率を操作できることを前提にしているが、それは非現実的。また、フリードマンが特に批判した金利固定策は、継続的な金融拡張策によって金利を一定にしようとするものだが、そうした拡張策の流動性効果は長続きしない、というフリードマンの考えは今日では広く受け入れられている。

*1:cf. ここ

*2:cf. ここ