低い悲惨指数のジレンマ

「The Low Misery Dilemma」と題したエントリでCarola Binderが次のように書いている

The other day, Tim Duy tweeted:
https://twitter.com/TimDuy/status/897668713800925184:twitter
It took me a moment--and I'd guess I'm not alone--to even recognize how remarkable this is. The New York Times ran an article with the headline "Fed Officials Confront New Reality: Low Inflation and Low Unemployment." Confront, not embrace, not celebrate.


(拙訳)
数日前、Tim Duyが次のようにツイートした。

FOMC議事録は、低インフレを懸念する委員がいる一方で低失業率を重要視する委員がいることを明らかにするだろう。

これがどのくらい驚くべきことかをそもそも気付くのに暫くかかったが、それは私だけではなかったはずだ。ニューヨークタイムズは「FRB当局者は新たな現実に直面:低インフレと低失業率」と題した記事を掲載した。直面であって歓迎ではなく、祝賀でもない。


Binderは、1980年には21%に達した悲惨指数(=失業率とインフレ率の合計値)が今や約6%となり、6〜8%だった1960年代の水準と同じ水準にまで下がった、ということは本来は喜ぶべきことのはずだが、それが本当に新たな現実だとすれば経済学の論理的に欠けている部分があることになる、と懸念する。その欠落について彼女は以下の可能性を列挙している。

  • 自然失業率が我々が思っているよりもかなり低いため、実は完全雇用に達していない。
  • 我々が誤った労働市場指標を見ているため、実は完全雇用に達していない。
  • 何らかの理由で完全雇用は賃金に上昇圧力を与えなくなった。
  • 我々は誤った賃金指標を見ている。
    • SF連銀の研究者は、賃金の伸び率の指標はベビーブーマーの引退について調整すべし、と主張している。
  • 物価インフレと賃金インフレのリンクが弱まった。


その上で、金融政策当局者の選択肢について以下のように書いている。

Until policymakers feel confident that they understand why we are experiencing both low inflation and low unemployment, they can't simply embrace the low misery. It is natural that they will worry that they are missing something, and that the consequences of whatever that is could be disastrous. The question is what to do in the meanwhile.
There are two camps for Fed policy. One camp favors a wait-and-see approach: hold rates steady until we actually observe inflation rising above 2%. Maybe even let it stay above 2% for awhile, to make up for the lengthy period of below-2% inflation. The other camp favors raising rates preemptively, just in case we are missing some sign that inflation is about to spiral out of control. This latter possibility strikes me as unlikely, but I'm admittedly oversimplifying the concerns, and also haven't personally experienced high inflation.
(拙訳)
低インフレと低失業率がなぜ同時に起きているかを自信を持って理解するまで、政策当局者は低悲惨をただ歓迎するわけにはいかない。何かを見落としているのではないか、と彼らが心配するのは尤もだし、その見落としが何であれ、破滅的な結果をもたらしかねない。問題は、取りあえず何をするか、である。
FRBの政策については2つの陣営がある。片方の陣営は様子見アプローチを好む。インフレが実際に2%を超えるまで金利をそのままにしておこう、というわけだ。あるいは、暫くの間2%を超えるのを容認し、2%を下回るインフレが長く続いたことの埋め合わせをしようとさえするかもしれない。もう片方の陣営は、先手を打って金利を引き上げることを好む。インフレが制御できないスパイラルに陥るサインを我々が見逃している場合に備えよう、というわけだ。後者の可能性は低いと私は思うが、ここでは懸念を単純化し過ぎていることは認めざるを得ないし、また、個人的には高インフレを経験したことが無い。