という分析を行った記事がIMFブログに上がっている(H/T Economist's View)*1。この記事についてはIMFによる邦訳も用意されているので、分析結果についての文章をその邦訳と合わせて引用してみる。
Impact of the 3 percent policyWe find that an increase in minimum wages in Japan not only affects those who are working below or at the current minimum wage level—which is estimated around 10 percent of the working population—but it also increases average wage growth through various channels.
Suppose a firm now has to increase a worker’s pay from $7 to $8 an hour. In a competitive market, most business owners would lay off these workers to cut costs. But in Japan, given the current tight labor market, with record low unemployment and record high labor shortages, Japanese firms are more likely to retain these workers who are currently working below the new minimum wage. Or they might try to substitute them with more skilled workers who can command even higher wages. In either case, the effect on average wages would be positive.
Our research further explains this outcome, by looking at data for seventeen years (from 1997 to 2014), and confirms that the planned 3 percent policy would result in an additional 0.5 percent increase in average wages per year.
(IMF訳)
3%上げ政策の影響分析
この分析では日本で最低賃金を引き上げることは、現在総労働人口の約10%を占めると推定される最低賃金、もしくはそれより低い額で働く人々の賃金だけではなく、様々な経路を通じて平均賃金の伸びも加速することが確認されました。
例えば、ある企業が従業員の賃金を時給7ドルから同8ドルへ引き上げなければならなくなったとします。競争が激しい市場では、こうした企業の経営者の多くは、コスト削減のためにそうした従業員を解雇するでしょう。しかし、失業率が過去最低となる一方、労働力が過去最大の不足となるような労働需給の引き締まりが発生している日本では、新たな最低賃金以下の報酬で現在働いている従業員を企業がそのまま引き留めようとする確率が高くなります。もしくは、企業はこれらの従業員を、より高い賃金を払ってもより熟練度の高い労働者に置き換えようとするかもしれません。いずれの場合にしろ、平均賃金には引き上げ効果を持つことになります。
IMFの分析は1997年から2014年までの17年間のデータを調べた結果、この結果をさらに説明できる結果を得るとともに、最低賃金を毎年3%上昇させる計画が、平均賃金を1年あたり0.5%上昇させることを確認しました。
以前紹介したリー=サエズの最低賃金に関する論文では、「雇用者は労働者の入れ替えを最小化しようとする」という前提を置いていたが、上記引用部の「現在働いている従業員を企業がそのまま引き留めようとする」はそれに呼応した話と言えそうである。
ただ、リー=サエズは、最低賃金による失業で労働者全体の余剰が減少しないことを一つの大きなテーマにしていたのだが、IMFは賃金の伸び率の上昇によるリフレ政策の後押しに焦点を当てているので、労働者の余剰にはあまり注意を払っていないようである。リー=サエズは余剰の大きな労働者の雇用継続と併せて再分配政策の重要性を強調していたが、IMF記事の上記引用部における「より高い賃金を払ってもより熟練度の高い労働者に置き換えようとする」企業の話や、引用部の後続の文章における構造改革政策の強調は、そうしたリー=サエズの問題意識と必ずしも一致していないように思われる。