長期停滞1と長期停滞2

マイケル・スペンスがProject Syndicate論説で長期停滞を取り上げ、我々が直面している長期停滞を長期停滞1(SS1)と長期停滞2(SS2)に分類している。


長期停滞1とは、将来の成長と安定を危うくすること無しに短期的に対処することが難しい持続的な成長減速要因である。スペンスは長期停滞1の兆候として以下の3点を挙げている。

  1. ロバート・ゴードンが指摘するような、生産性を向上させる技術進歩の減速
    • 仮にそれほど減速していないとしても、技術進歩がもたらす生産性の利得を活用するために構造を適応させたり行動を変化させたりするのには時間が掛かる
  2. 成長、職の保証、政策や規制などに関する不確実性
    • 投資や消費への悪影響が増大
  3. 家計、企業、金融機関、政府の全部門がバランスシート制約に直面
    • バランスシート調整は長期的には利得をもたらすが、短期的にはコスト要因となる


長期停滞2とは、正しいポリシー・ミックスの実行を怠る、ないしできないことによってもたらされる長期停滞である。スペンスは正しいポリシー・ミックスにおける政策として以下の3つを指摘している。

  1. 格差拡大への対処
    • 格差拡大をもたらしているグローバリゼーションやデジタル技術進歩などの勢いには抗しがたいが、それらの悪影響は、税による再分配や社会保障制度によって緩和することできる。
  2. 2008年の金融危機以降に過大な負担を課せられた金融政策の再考
    • 何年もの超低金利や大規模な量的緩和は総需要を十分に回復させることはなく、デフレ圧力を減らしもしなかった。
    • とはいえ、金利を引き上げるのにも資金流入と為替増価という深刻なリスクがあるので、先進国は、成功した新興国と同様の資本規制を考えるべき。
  3. 公共投資をはじめとする財政対応の強化
    • 欧州は財政余力を十分に生かしていないことにより高いツケを払っている。
    • 適切な条件下で、年金やソブリン・ウエルス・ファンドのバランスシートを投資資金に振り向けることも考えるべき。

それ以外にスペンスが挙げる改革すべき領域は、税政策、公的資金の非効率ないし不適切な使用、生産市場や要素市場の構造改革への障害、グローバルな金融機関のリーチと金融危機対応時に国家のバランスシートが対応できる範囲とのミスマッチ、である。


スペンスは以下のように記事を結んでいる。

SS1 will make addressing SS2 much more difficult. In fact, it seems that not even robust domestic and international policy responses would be sufficient to eliminate the risk that demand and growth will remain subdued for an extended period. But that is no reason to delay action in the areas where policy can make a difference. Just as our past policy choices helped to generate the SS1 we face today, failure to implement policies aimed at tackling SS2 could create a much more intractable and potentially unstable situation tomorrow.
(拙訳)
長期停滞1は長期停滞2への対処をかなり難しくしている。実際のところ、国内外の断固とした政策対応でさえ、長期間に亘って需要と成長が減退するリスクを排除するには十分ではないだろう。しかしそのことは、政策が効果を発揮し得る領域での行動を遅らせる理由にはならない。我々の過去の政策選択が、今日我々が直面する長期停滞1をもたらす一因となったように、長期停滞2に対処するための政策を実施しなければ、明日の状況はより解決が難しくおそらくは不安定なものとなってしまうだろう。