NYTには数学の分かる編集者が必要

とDigitoplyのJoshua Gansが書いている(H/T Economist's View)。
Gansは「Originals: How Non-conformists Change the World」という新著を出すアダム・グラント・ペンシルベニア大ウォートン校教授*1の「How to Raise a Creative Child」というNYT記事を読み、創造的な子供を育てるには好きなことをさせれば良い、という主旨は理解したものの、別のところで引っ掛かったという。

But, by the second paragraph, I had a problem:

Consider the nation’s most prestigious award for scientifically gifted high school students, the Westinghouse Science Talent Search, called the Super Bowl of science by one American president. From its inception in 1942 until 1994, the search recognized more than 2000 precocious teenagers as finalists. But just 1 percent ended up making the National Academy of Sciences, and just eight have won Nobel Prizes. For every Lisa Randall who revolutionizes theoretical physics, there are many dozens who fall far short of their potential.

The argument is that child prodigies don’t end up becoming the creative individuals you were aiming for. But this particular example did not read like that to me. Instead, I looked at those figures: 8 out of 2,000 winning Nobel prizes, 28 being members of the National Academy of Sciences and thought, “woah, that’s huge!”
So why did Grant and the NYT editors read this as negative or neutral when I saw it as positive? The answer is that you have to know whether a number if small or big relative to a benchmark. My reaction was that it sounded big. Grant’s was clearly that it was small. But what should we expect for something like this?
(拙訳)
しかし第二段落のところで私は引っ掛かった。

科学的才能に恵まれた高校生に贈られるこの国で最も権威のある賞のウェスティングハウス・サイエンス・タレント・サーチを考えてみよう。ある米大統領はこの賞を科学のスーパーボウルと呼んだ。1942年の誕生から1994年に至るまで、このコンテストは2000人以上の早熟の十代若者を最終候補者として選出した。しかし米科学アカデミー会員となったのはそのうちの1%に過ぎずノーベル賞を受賞したのは8人に過ぎない。理論物理学に革命を起こしたリサ・ランドール1人につき、才能をまったく発揮できなかった数十人がいるのだ。

ここでの主張は、神童は、目指す創造的な人物になれるとは限らない、というものだ。しかしこの中で挙げられた事例は、私にはそうは取れなかった。むしろ、2000人のうち8人がノーベル賞を受賞し、28人が科学アカデミー会員になったという数字を見て私は、「これは凄い数字だ!」と思った。
では、なぜグラントとNYT編集者は、私が肯定的に受け止めたこの数字を否定的ないし中立的に受け止めたのか? その答えは、数字の大小はベンチマークと比較して把握すべき、という点にある。私にはこの数字は大きいように思われた。明らかにグラントはそれを小さいと考えた。こうしたことについてはどのように考えるべきなのだろうか?


この後Gansは数字を以下のように仔細に検討している。

  • また、高校生が賞を獲得するには少なくとも約40年の歳月が必要だということも考慮すべき。直近のノーベル賞受賞者は1968年の最終候補者だった。すると、1040人中8人ということになる。
  • NYT記事は上記引用部内で2006年のJournal of Adult Development誌論文を援用しているが、その論文はグラントの主張を支持していない。同論文では、大部分が成功して科学者としてのキャリアを継続していることを示している。男性の91%、女性の74%が博士号を取得しており(この性差が論文の主題)、移民出身者はさらに成績が良い。
  • グラントは、教育を押し付ける両親は子供の創造性にとって良くない、という論旨を補強するために米高校生科学コンテストを引用したようだが、コンテスト参加者の両親が教育ママorパパだという証拠は無く、参加者はそもそも創造性が高いのかもしれない。
  • こうした統計数字の扱いや結論の導出については、NYTの編集者が問題点を指摘すべきだった。本の論理展開はもっときちんとしているのかもしれないが、そうでもないかもしれない。現在(グラントの推奨通り)自由気ままに過ごしている子供たちが、後で高い授業料を払う羽目にならなければ良いが、と願うばかり。

*1:著書の邦訳本には以下がある。

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)

GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 (単行本)