インフレと経済活動――2つの探求とその金融政策にとっての含意

というNBER論文をブランシャールとサマーズが書いているungated版[IMF版])。原題は「Inflation and Activity - Two Explorations and their Monetary Policy Implications」で、著者はOlivier Blanchard(ピーターソン国際経済研究所)、Eugenio Cerutti(IMF)、Lawrence Summers(ハーバード大)。
以下はその要旨。

We explore two issues triggered by the crisis. First, in most advanced countries, output remains far below the pre-recession trend, suggesting hysteresis. Second, while inflation has decreased, it has decreased less than anticipated, suggesting a breakdown of the relation between inflation and activity. To examine the first, we look at 122 recessions over the past 50 years in 23 countries. We find that a high proportion of them have been followed by lower output or even lower growth. To examine the second, we estimate a Phillips curve relation over the past 50 years for 20 countries. We find that the effect of unemployment on inflation, for given expected inflation, decreased until the early 1990s, but has remained roughly stable since then. We draw implications of our findings for monetary policy.
(拙訳)
我々は危機によって引き起こされた2つの問題を追究した。第一に、大方の先進国において生産が不況前のトレンドを大きく下回ったままとなっており、履歴効果を示唆している。第二に、インフレは低下したものの、その低下幅は予想を下回っており、インフレと経済活動の間の関係が崩れたことを示唆している。最初の問題を調査するため、我々は過去50年間の23ヶ国における122の不況について調べた。その多くにおいて生産の低下や成長率のさらなる低下が後に続いたことを我々は見い出した。第二の問題を調査するため、我々は過去50年間の20ヶ国のフィリップス曲線の関係を推計した。所与の期待インフレについて失業がインフレに与える影響が1990年代初頭に至るまで低下したこと、しかしそれ以降は概ね安定的であったことを我々は見い出した。我々は、これらの発見の金融政策にとっての含意を導出した。

IMF版の結論部ではそれぞれの問題の金融政策にとっての含意として以下の2点が記述されている。

  • 履歴効果を考えると、生産の最適水準からの低下は長期化し、かつ、高くつくため、金融政策はインフレよりも生産により積極的に反応すべき。ただし、成長率の低下に起因する不況だった場合は、潜在生産力および生産ギャップを過大評価して(下図参照)金融政策の反応が強くなり過ぎてしまう可能性がある点は要注意。
  • 論文の当初仮説に反してインフレと失業率との間の安定した関係は継続していたものの、その係数は小さくなっているため、政策にとっての含意を導出するためには、係数が低下した原因を突き止める必要がある。また、失業のインフレへの影響が低下したため、金融政策ルールはインフレよりも失業率ギャップに重きを置くようにした方が良い(インフレを安定させようとすると失業率ギャップが大きく振れてしまう)。