誰でもわかるケインズ主義

「Keynesianism Explained」と題された15日エントリクルーグマンが、ケインズ主義の簡単なサマリーとして以下の4項目を挙げている。

  1. 経済は時として能力よりかなり低い生産活動しか行わず、雇うべきよりもかなり少ない労働者しか雇わないことがある。その理由は十分な支出が無いためである。そうした状況は様々な原因で起こり得る。問題は対処方法である。
  2. 通常は経済を完全雇用に戻す力が働く。しかしその力の働きは遅い。不況下の経済における不干渉政策は、不必要な痛みの期間が長引くのを受け入れることを意味する。
  3. 金利引き下げのための中央銀行の貨幣創造力を利用して、「紙幣を刷る」ことによって痛みの期間を大幅に短縮し、人とカネの損失を大きく削減することが可能である場合が多い。
  4. しかしながら、金融政策が効力を失う時もある。金利がゼロに近い時は特にそうである。その場合、一時的な赤字による財政支出は有用な後押しを経済に提供する。逆に、不況下の経済における財政緊縮策は大いなる経済的損失をもたらす。


その上で、ケインズ主義に関する虚偽の主張として以下の3項目を挙げている。

  1. どんなに遅くても遅れていても、何らかの経済回復が生じていることは、ケインズ主義の経済学が間違っていることを証している。
    • この主張がケインズ主義を分かっていない点については、上記第2項を参照。
  2. ケインズ主義者は紙幣を印刷すればすべての問題が解決すると考えている。
    • 上記第3項を参照。紙幣の印刷はある特定の問題を解決できる。それは経済が能力より遥かに低い水準で稼働しているという問題である。生産性を高める魔法の杖であるとか、一般的な症状を治せると主張する者はいない。
  3. ケインズ主義者はあらゆる条件下で赤字支出を常に好む。
    • 上記第4項を参照。財政刺激策が正当化されるケースは極めて限定的であり、経済が不況下にあることと金融政策が深刻な制約を受けていることの両方が必要条件となる。我々の住む世界ではまさにその2つが最近発生した。


Economist's ViewのMark Thomaは、ケインズ主義の主張の5点目として以下を付け加えた。

  • ケインズ主義は、成長を高めるサプライサイド政策に反対しているわけではない。サプライサイド政策とは、課税される税の種類が問題だ、とか、起業活動は促進されるべきだ、というようなことである。しかしそうした主張は、減税などによって富裕層向けに所得を再分配する隠れ蓑として利用されるべきではないし、重要な社会サービスのプログラム削減を論じる手段として利用されるべきでもない。また、減税の支持のためだけに利用されてもならない。インフラ支出は経済成長にとって重要であり、教育を受けた健全な労働力は生産性が高い、といったこともきちんと論じられなくてはならない。経済成長は、政治献金をしてくれるであろう富裕層の減税といったことよりも遥かに大きな問題なのだ。

また虚偽の主張の第3項目への反論として以下を付け加えている。

  • ケインズ主義者は大きな政府を好んでいるわけではない。彼らは、財政赤字は(金融政策単独では不十分となる)深刻な不況下で経済を刺激するために用いられるべき、と考えているが、同時に彼らは、好況下で赤字が埋められるべき、とも考えている(山を削って谷を埋め、GDPや雇用の経路を安定化させる、ということ)。我々は、好況期に赤字を返済することにあまり長けていないが、しかし民主党がその責を負うべきとは言えない(例えば、富裕層向けの減税を考えてみよ)。

Thomaの付け加えた項目はいずれも富裕層向けの減税を標的にして党派的な色彩を強めてしまっており、クルーグマンの元の意図からすると書かずもがな、という気がしなくもない。