厳格な銀行規制を支持する抗しがたい論拠

以前、小生は以下のようなことを書いたことがあった。

また、2000年代前半の低金利が住宅バブルの原因として批判されているが、これはテイラーだけでなく、ベックワースがかねてより唱えているほか、ここで紹介したように、ECBの研究者による実証報告もなされている。ただ、これがミスであるとしても、そうしたミスがこれほどの事態を招くというのは、金融政策が実はかなりシビアな状況に置かれていることの証左でもあるように思われる。再び車の運転に喩えるならば、広い公道をのんびりとドライブしているわけではなく、F1のモナコグランプリ並みのシビアな状況に置かれているということである。ちょっとしたブレーキの遅れ、ちょっとしたハンドル操作の誤りが忽ち大事故につながってしまう、というわけだ。このため、90年代にはセナ足並みの精妙な金利操作でマエストロと称えられたグリーンスパンも、最後に大クラッシュを起こしてしまった。
フェイルセーフの観点から言えば、そうしたミスがあっても金融システムの崩壊を招かないような仕組みが欲しいところではあるが、やはり残念ながらそのような仕組みは未だ存在していない。そうした中でもとにかくルールに従っていれば無問題、というテイラーの提言は、かつてのマネタリストのk%ルールと同じく、些か金融経済システムの安定性を過大評価しているのではないか、という気もする。

テイラー「FRBの目標は一つで良い」 - himaginaryの日記


Economist's Viewが引用する4/21ブログエントリクルーグマンも同様のことを述べている。

...if it’s really that easy for monetary errors to endanger financial stability — if a deviation from perfection so small that it leaves no mark on the inflation rate is nonetheless enough to produce the second-worst financial crisis in history — this is an overwhelming argument for draconian bank regulation. Modest monetary mistakes will happen, so if you believe that these mistakes caused the global financial crisis you must surely believe that we need to do whatever it takes to make the system less fragile. Strange to say, however, I don’t seem to be hearing that from Taylor or anyone else in that camp.
(拙訳)
・・・もし金融政策の誤りがそれほど容易に金融の安定を脅かすならば――完璧さからの逸脱がインフレ率に何ら痕跡を残さないほど小さいにも関わらず、歴史上二番目にひどい金融危機を起こすのに十分であるならば――それは厳格な銀行規制を支持する抗しがたい論拠となる。金融政策のちょっとした誤りは起こるものであり、従って、そうした誤りが世界的な金融危機を発生させたと信じるならば、システムの脆弱性を減らすためにあらゆる手を打つべきと信じるはずである。しかし奇妙なことに、テイラーないし彼の陣営にいる誰からもそうした議論を聞いた記憶がない。


2000年代前半のFRBの金融緩和が行き過ぎだったか、という議論はこれまでも数え切れないほど繰り返されてきたが、今回のラウンドの論者についてはデビッド・ベックワースがまとめている。本ブログで紹介してきたように(例:上記引用部やここのHarlessのコメント)、あるいは本人が自認するように、ベックワースはテイラー寄りの見解である。一方でテイラー嫌いの別のデビッド(=David Glasner)がこの議論に参戦し、テイラーの認識を遠慮会釈無しに打擲している