もう一組のR&R

としてクルーグマンがクリスティーナ&デビッド・ローマー夫妻のNBER論文「New Evidence on the Impact of Financial Crises in Advanced Countries」を紹介している*1。以下は論文の要旨。

This paper examines the aftermath of financial crises in advanced countries in the four decades before the Great Recession. We construct a new series on financial distress in 24 OECD countries for the period 1967–2007. The series is based on assessments of the health of countries’ financial systems from a consistent, real-time narrative source; and it classifies financial distress on a relatively fine scale, rather than treating it as a 0-1 variable. We find that output declines following financial crises in modern advanced countries are highly variable, on average only moderate, and often temporary. One important driver of the variation in outcomes across crises appears to be the severity and persistence of the financial distress itself.
(拙訳)
本稿は大不況の前の40年における先進国での金融危機の影響を調べた。我々は1967-2007の期間における24のOECD諸国での金融不況に関する新しいデータ系列を構築した。この系列は、体系的なリアルタイムの体験談をソースとした、各国の金融システムの健全性に関する評価に基づいている。また、金融不況を0か1かの変数として扱うのではなく、比較的細かなスケールで分類している*2。我々は、現代の先進国での金融危機後の生産の低下は非常にバラつきが大きく、平均すれば緩やかでしばしば一時的なものに過ぎないことを見い出した。危機ごとに結果がバラつく主因の一つは、金融不況そのものの深刻さと持続性にあるように思われる。


クルーグマンはこの論文を、まだきちんと読んでいないが、客観的な手法を用いた見事な体系的な研究、と評価し、別のR&Rたるラインハート=ロゴフ論文に疑問を投げ掛けるもの、としている。ただ、反射的な反応として、見るべき変数を見ていないのではないか、という疑義も呈している。というのは、信用バブルや住宅バブルの後は常にひどいことになる、というのが彼の考えだからである。その点について彼は、Alan Taylorらによる別のNBER論文を引きながら、信用市場の状況に関するレポートではその点がうまく捉えられていないのでは、と指摘している*3


その一方で、2008年の危機からの回復が非常に遅々たるものになった理由としてはゼロ金利下限に到達したことが決定的だった、というローマー=ローマーの見方に賛意を表し、自分はラインハート=ロゴフの論文が出る遥か前にそれを予言していたのだ、と述べている。その点に関連して、後続のエントリでは、インフレ対策としてFRB金利を引き上げたことによってもたらされる大平穏期以前の不況と、インフレが低く安定したまま民間部門が過熱したことによってもたらされる大平穏期後の不況の区別を強調し、例えば1981年の不況時には10%も金利を引き下げることができたが、今回は幾らも下げないうちにゼロ金利下限に到達してしまった、と指摘している。ただ、今回は前例の無い財政緊縮策も状況を悪化させたが、政策対応が正しければ金融危機後の回復の遅れは避けられる、とも述べている。

*1:ungated版

*2:ungated版論文の表1によれば15段階。

*3:ローマー=ローマー論文は分析のソースとしてOECDエコノミック・アウトルックの金融市場関係の記述を用いている。