インフレ目標は政府によるマネタイズ要求を防ぐ砦となり得るか?

10/25エントリでサイモン・レン−ルイスとTony Yatesの論争を紹介したが、その後レン−ルイスがYatesに再反論した(該当エントリはEconomist's Viewクルーグマンも取り上げている)。


10/25エントリではYatesの考えを

インフレ目標のためのヘリコプターマネーがハイパーインフレやそれに伴う貨幣価値の毀損を引き起こすとは限らない、という点についても議論が交わされたが、それについてはYates自身は確信が持てない。例えば英国のインフレ目標は制度的に非常に脆く、財務省や議会が簡単に変更できる。従って、インフレ目標がヘリコプターマネーによって金融財政政策が蝕まれるのを防ぐための鋼鉄の鎧になるとは考えらない。政府が一度ヘリコプターマネーの味を覚えてしまったら、さらなる要求を防ぐ手立ては無い。

と紹介したが、レン−ルイスはその論点に関して以下の2点を指摘している。

  1. OECD諸国の多くではマクロ経済への理解が進み利用可能な情報も多いため、1970年代のようなインフレの再来を防ぐにはインフレ目標で十二分。
    • 英国のように政府がインフレ目標に対する直接のコントロール権を持ち、中銀に対して金利操作でその目標を達成するように要求する国において、政府が支出増加を賄うためにインフレ目標を引き上げるかと言えば、引き上げないだろう。大抵の人々が高インフレを実質賃金の低下として受け止めるため、そうした政策は不人気政策となるからだ。中銀の助言に反してマネタイズを繰り返し強行し、それでもインフレ目標は守られる、と強弁した政府は、インフレが実際に高騰した時に生き残れないだろう。
  2. そもそも1970年代の先進国の高インフレは、政府が自らの浪費をマネタイズしようとしたために起きたのでは無かった。
    • 米国とドイツは独立した中銀を有していた。
    • インフレが起きたには以下の理由による:
      • 実質賃金を減少させるようなショックの下での労組の圧力
      • 自然失業率の過小評価(と、金融政策の機能への理解不足)
      • 完全雇用の達成に重きを置きすぎたこと
        • 大恐慌の経験から政治家たちは失業問題にこだわり過ぎた

レン−ルイスは、インフレ懸念にこだわる人々を、もはや不適切になったにも関わらず最後に勝利した戦闘方法にこだわる将軍に喩えている。不況下の債務増大懸念も同様、との由。