救急医ではなく家庭医としてのIMF

アジア開発銀行チーフエコノミスト・経済調査局局長からIMFアジア太平洋局長に転じた李昌庸*1(イ・チャンヨン;Changyong Rhee)のインタビュー記事がIMFのサイトに掲載されている(H/T Mostly Economics)。そこで李は、自分の優先課題として以下の3つを掲げている。

  1. アジアにおけるIMFの評価を高める
    • 1997年のアジア金融危機以降、アジアとIMFの関係は大きく改善し、政策当局者はIMFの助言と専門的知見を評価しているが、中には未だにIMFを危機の時にだけ患者を助ける救急医のように見做している人もいる。IMFは患者の病歴を深く理解した上で継続的なケアと率直な助言を提供する家庭医であるべき。
  2. 技術の養成と生産能力の構築
    • IMFの観点からすればマクロ経済および金融の安定が主要目標であり、これらはもちろん重要だが、アジア太平洋地域に数多く存在する中低所得国にとっての本当の課題は、如何に持続的な成長と発展を遂げるか、という点にある。
  3. 金融インフラの整備
    • 多くのアジア諸国では、金融部門が実体経済より立ち遅れている。銀行間市場、新規の資本市場、決済や清算の問題、など。


上記の3点について、Mostly Economicsはそれぞれ以下のようにコメントしている。

  1. IMFが家庭医というならば、ある国への処方箋を他の国に処方することは避けるべき。IMFはこれまで標準的な処方箋を各国に適用してきたが、アジアと他の地域との経済社会構造の違いをきちんと認識すべき。
  2. 世銀と目標が被っている。
  3. アジアの多くの国は実体経済でも立ち遅れている。金融システムのインフラ云々より、実体経済において人々にビジネスや就職の機会が無いことの方が大きな問題。この話は、IMFが家庭医から未だ程遠いことを示している。

またMostly Economicsは、家庭医になるというのならば、同じような大学の出身者を取るのを止めて――出身国が様々でも同様の大学で訓練を受ければ結局は集団思考に染まってしまう――アジアの大学出身者を採用し、より地域に密着した視点を持つべき、と提言している。

*1:庸は正しくは金へんに庸。