アベノミクスの金融部門:簡単なモデル

なる論文をAlexei Krouglovが書いている。原題は「Monetary Part of Abenomics: A Simplified Model」。
で、Krouglovって誰、という点についてだが、別の論文のSSRNエントリによるとカナダ在住のようで、肩書きは「Independent Researcher」となっている。「Mathematical Dynamics of Economic Markets」という著書もあるようだが、正規の学界研究者ではないようなので、研究内容もその点を踏まえて読んだ方が良さそうではある。

この論文は今年の2/4付けとなっているが、執筆のきっかけになったのは昨夏の日本の金利上昇のようだ(その問題を扱ったNick Roweの6/10付けWCIブログエントリ「日本はもう死んでいるのか?(Is Japan already dead?)」へのAlex名での自コメントに文中の脚注でリンクしている)。


論文のモデルは、以下のようになっている。

ここでPは金融商品の価格、VSはその供給量、VDは需要量、Lは流動性供給である。


このモデルにおいて、Pは以下のような振る舞いをするという。

  • λDが2×SQRT(λS/λP)より小さければ、流動性供給によって価格は振動する
    (ただしその振動は時間とともに減衰する)。
  • λDが2×SQRT(λS/λP)以上ならば、振動は発生しない。

いずれの場合も、Pは最終的にはP0+δL/λSに収束する。

ここからKrouglovは以下の3つの含意を導き出している。

  1. 日本社会は金利が低くても国債を買い続けることから、λDは小さいと考えられる。
  2. アベノミクスの金融拡張策によってもたらされた当初の金融市場の熱狂がやがて衰えたことは、金融商品の価格上昇がδL/λSによって扼されているという上記の理論的結果と整合的である。
  3. 価格の最終的な調整幅は、金融市場への流動性の注入速度δLに比例する。


一方、以下のように流動性の注入速度を時間とともに加速するようにすると、結果は違ってくる。

この場合、Pが振動する/しないの条件は同じだが、最終的な価格の収束は以下のようになるとのことである。

即ち、価格は時間とともに上昇を続ける。従って、金融商品の価格に継続的な影響を与え続けるためには、流動性を一定の割合で注入し続けるのではなく、加速度的に注入する必要がある、というのがKrouglovの第4の指摘である。