ビットコインは貨幣に非ず?

ビットコインを巡ってクルーグマンが幾つかエントリを書いているが、彼の見解は、貨幣として見た場合に価値貯蔵の機能が脆弱ではないか、という12/28付けの最初のエントリでの疑問に尽きているように思われる*1。その点について科学技術者に問い質した時の話を彼は以下のように書いている。

I have had and am continuing to have a dialogue with smart technologists who are very high on BitCoin — but when I try to get them to explain to me why BitCoin is a reliable store of value, they always seem to come back with explanations about how it’s a terrific medium of exchange. Even if I buy this (which I don’t, entirely), it doesn’t solve my problem. And I haven’t been able to get my correspondents to recognize that these are different questions.
(拙訳)
これまでビットコインを高く評価する賢明な科学技術者とやり取りをしてきて、今もしているのだが、なぜビットコインが信頼できる価値貯蔵手段なのかを説明してもらおうとする度に、彼らは、それらが如何に素晴らしい交換媒介かという説明に立ち戻ってしまうように思われる。それに納得するにしても(実際には完全には納得していないが)、私の疑問は解決されない。そして、やり取りの相手に、その二つが別々の問題であることを認識させることができないでいる。


David Andolfattoも12/24エントリおよびそこでリンクした4/24エントリで同様の指摘をしており、ビットコインのみならず金も価値貯蔵手段としては相応しくない、と論じている。以下は彼の4/24エントリの一節。

A desirable property of a monetary instrument is that it holds its value over short periods of time. Most assets do not have this property: their purchasing power fluctuates greatly at very high frequency. Imagine having gone to work for gold a few weeks ago, only to see the purchasing power of your wages drop by 10% in one day. Imagine having purchased something using Bitcoin, only to watch the purchasing power of your spent Bitcoin rise by 100% the next day. It would be frustrating.
(拙訳)
金融の手段として望ましい特性は、短期において価値を維持することである。殆どの資産はこの特性を持っておらず、その購買力は非常に高い頻度で大きく変動する。数週間働いて金を手にし、その賃金の購買力が一日にして10%低下することを想像してみれば良い。ビットコインで何かを購入して、使ってしまったビットコインの購買力が翌日に100%上昇することを想像してみると良い。腹立たしいことだろう。


なお、クルーグマンが引用したデロングのブログエントリでは、そもそもビットコインの価値に下限が存在しないのでは、と問うている。金は金細工の作成に転用できるし、ドルは米政府への税の支払いに使える上に、年2%以上の価値の低下が起きたらFRBが回収して消却することになっている。ビットコインにはそうした下限を設定する仕組みが存在しないのではないか、とデロングは言う。


また、タイラーコーエンは、デロングとのメールのやり取りを通じて、競合財の参入によってビットコインの価値が暴落するのではないか、という考察に至ったようで、ブログでその考察を示している。


さらに、NYUのDavid Yermackは、先月のNBER論文で、ビットコインは貨幣というよりは投機的な投資ではないか、と論じている(H/T Mostly Economics)。以下は同論文の要旨。

Motivated by Bitcoin’s rapid appreciation in recent weeks, I examine its historical trading behavior to see whether it behaves like a traditional sovereign currency. Bitcoin has exchange rate volatility an order of magnitude higher than the volatilities of widely used currencies, undermining Bitcoin’s usefulness as a unit of account or a store of value. Bitcoin’s daily exchange rates exhibit virtually zero correlation with bona fide currencies, making Bitcoin useless for risk management purposes and exceedingly difficult for its owners to hedge. Bitcoin also lacks access to a banking system with deposit insurance, and it is not used to denominate consumer credit or loan contracts. Bitcoin appears to behave more like a speculative investment than like a currency.
(拙訳)
ここ数週間のビットコインの急激な価値の上昇をきっかけに、ビットコインの過去の取引動向を調べ、従来の政府発行貨幣と同様の動きをするかどうかを見てみた。ビットコインの交換レートのボラティリティは、広く使われる通貨のボラティリティよりも桁が一桁大きく、価値尺度ないし価値貯蔵手段としてのビットコインの有用性を損なっている。ビットコインの日々の交換レートと真正貨幣との相関は事実上ゼロであり、ビットコインリスク管理の目的には使えないものとしているほか、所有者によるヘッジを著しく困難なものとしている。ビットコインはまた、預金保険を備えた銀行システムへのアクセスが欠落しており、消費者信用や融資契約の書面にも使用されていない。ビットコインは、貨幣というよりは投機的な投資のように振舞っているように見える。

*1:他のエントリ(12/29付け12/31付けその112/31付けその2)では専らビットコイン信奉者への対応に追われている(特に12/31付けの2本は、不換紙幣の価値の裏付けの説明に費やしている)。また、12/29付けのもう一つのエントリでは、大学時代のルームメートJohn R. Levineの論考を紹介している。