今年追加された雇用の96%がパートタイム

というブログ記事を先月初めにマンキューが紹介したが、最近Economist's ViewのMark Thomaが、マンキューの引用した数字は間違いだ、と反論した(ただし、どこがどう間違いなのかは書いていない)。


マンキューがリンクしたのはジョン・ロット(John Lott)という人*1のブログ記事。そこでロットが掲げている雇用統計の数字を抜粋すると、以下のようになる(単位:千人)。

1月 8月
経済的理由によるパートタイム 7973 7911 -62
非経済的理由によるパートタイム 18464 19339 875
パートタイム計 26437 27250 813
雇用 143322 144170 848

即ち、1〜8月の雇用の増分848,000人のうち813,000人がパートタイムだった、その比率は96%に達した、とロットは指摘している。


ただ、ロットが追記で示しているところによると、雇用統計ではパートタイム計の数字を別途出しており、それは上記の2系列の合計と一致しない*2

1月 8月
パートタイム計 27467 27999 532

一致しない理由についてロットは、季節調整を別に掛けていることが一因だろう、と推測している。こちらの数字を使うと、848,000人のうち532,000人がパートタイムということになり、比率は63%となる*3


同ブログ記事のコメント欄では、ロットの計算に幾つか批判が寄せられているが、その一つは、パートタイムとフルタイムの間の行き来を考えたら、このような単純な数字の比較はあまり意味が無い、というものである。また、季節調整値を使うのはまずいのでは、という批判も寄せられている。さらに、トレンド的にはパートタイムは増えていない、という反論もなされているが、それはThomaがリンクしたデロングのブログ記事、ないしデロングがリンクしたEPIブログ記事がまさに主張していることである。


なぜここに来てパートタイムが雇用増加に占める割合が問題になっているのだろうか? それは、オバマ政権下で雇用の回復がどれだけ堅調か、というそもそもの議論に加えて、オバマケアの実施を控えて企業が雇用を保険負担の少ないパートタイムにシフトしているのではないか、即ち、オバマケアは雇用に悪影響を与えているのではないか、ということを保守派が主張し始めているからである。リベラル側は当然それを否定しており、それが今回のデロング&Thomaのマンキュー批判の背後にある。Thomaが、マンキューの引用した数字は間違い(I should also note that the figure Mankiw cited is wrong)、と明確な理由も示さずに斬って捨てたのも、そうしたイデオロギー的な側面の表れ――技術的な批判ならばもう少しきちんと説明するはず――という見方もできそうである。

*1:Wikipedia。銃が犯罪を抑止するという研究で有名な人らしく、日本語ブログではここここで言及されている。

*2:この件についてロットと論争したDepartment of Numbersというブロガーは、自分もそのことは知らなかった(To his credit, that's a little surprising to me too)と書いている。ちなみにこの一件を取り上げたタイラー・コーエンは、Department of Numbersにもリンクしている

*3:前注のDepartment of Numbersは59%という数字を出しているが、ロットはそれは計算期間が違うので63%が正しい、と述べている。