というブログ記事を先月初めにマンキューが紹介したが、最近Economist's ViewのMark Thomaが、マンキューの引用した数字は間違いだ、と反論した(ただし、どこがどう間違いなのかは書いていない)。
マンキューがリンクしたのはジョン・ロット(John Lott)という人*1のブログ記事。そこでロットが掲げている雇用統計の数字を抜粋すると、以下のようになる(単位:千人)。
1月 | 8月 | 差 | |
---|---|---|---|
経済的理由によるパートタイム | 7973 | 7911 | -62 |
非経済的理由によるパートタイム | 18464 | 19339 | 875 |
パートタイム計 | 26437 | 27250 | 813 |
雇用 | 143322 | 144170 | 848 |
即ち、1〜8月の雇用の増分848,000人のうち813,000人がパートタイムだった、その比率は96%に達した、とロットは指摘している。
ただ、ロットが追記で示しているところによると、雇用統計ではパートタイム計の数字を別途出しており、それは上記の2系列の合計と一致しない*2。
1月 | 8月 | 差 | |
---|---|---|---|
パートタイム計 | 27467 | 27999 | 532 |
一致しない理由についてロットは、季節調整を別に掛けていることが一因だろう、と推測している。こちらの数字を使うと、848,000人のうち532,000人がパートタイムということになり、比率は63%となる*3。
同ブログ記事のコメント欄では、ロットの計算に幾つか批判が寄せられているが、その一つは、パートタイムとフルタイムの間の行き来を考えたら、このような単純な数字の比較はあまり意味が無い、というものである。また、季節調整値を使うのはまずいのでは、という批判も寄せられている。さらに、トレンド的にはパートタイムは増えていない、という反論もなされているが、それはThomaがリンクしたデロングのブログ記事、ないしデロングがリンクしたEPIブログ記事がまさに主張していることである。
なぜここに来てパートタイムが雇用増加に占める割合が問題になっているのだろうか? それは、オバマ政権下で雇用の回復がどれだけ堅調か、というそもそもの議論に加えて、オバマケアの実施を控えて企業が雇用を保険負担の少ないパートタイムにシフトしているのではないか、即ち、オバマケアは雇用に悪影響を与えているのではないか、ということを保守派が主張し始めているからである。リベラル側は当然それを否定しており、それが今回のデロング&Thomaのマンキュー批判の背後にある。Thomaが、マンキューの引用した数字は間違い(I should also note that the figure Mankiw cited is wrong)、と明確な理由も示さずに斬って捨てたのも、そうしたイデオロギー的な側面の表れ――技術的な批判ならばもう少しきちんと説明するはず――という見方もできそうである。
*1:Wikipedia。銃が犯罪を抑止するという研究で有名な人らしく、日本語ブログではここやここで言及されている。
*2:この件についてロットと論争したDepartment of Numbersというブロガーは、自分もそのことは知らなかった(To his credit, that's a little surprising to me too)と書いている。ちなみにこの一件を取り上げたタイラー・コーエンは、Department of Numbersにもリンクしている。
*3:前注のDepartment of Numbersは59%という数字を出しているが、ロットはそれは計算期間が違うので63%が正しい、と述べている。