経済のサービス化は景気回復を遅らせる

という論文をCarola Binderが紹介している(H/T MR)。INETの資金提供で2011年に設立されたバークレー経済史研究所(The Berkeley Economic History Laboratory=BEHL)が今年初めに立ち上げたワーキングペーパーシリーズに登録された論文の一つで、著者はカリフォルニア大学バークレー校のMartha Olneyと、シエナ大学(ただしイタリアの大学ではなくNYのカレッジ)のAaron Pacitti。論文の原題は「Goods, Services, and the Pace of Economic Recovery」。
以下はその要旨。

Do service-based economies experience slower economic recoveries than goods-based economies? We argue they do. An economy recovers from a downturn when businesses increase production. Both goods and services can be produced in response to actual demand. But only goods—and not services—can be produced in response to anticipated increases in demand, allowing optimistic forward-looking producers to inventory goods until anticipated buyers appear. Services can’t be inventoried. The more services an economy produces relative to goods, the more production is dependent upon only actual increases in demand, and the slower the recovery. We exploit variation across time and states in the share of services in output. Controlling for the depth of the downturn, the higher is the share of services, the longer is the recovery. Extending our results to the current downturn, given the depth of the downturn, the rise in services alone will make the post-2009 recovery last about 1 year longer than it would have a half-century ago.
(拙訳)
サービスを基盤とした経済は財を基盤とした経済よりも景気回復が遅くなるだろうか? そうだ、と我々は論じる。経済が景気後退から回復するのは、企業が生産を増やした時である。財もサービスも実需に対応して増産することができる。しかし、需要の予想される増加に対応して生産し、先行き楽観的な生産者が実際に買い手が現れるまで在庫を保有できるのは財だけであり、サービスではできない。サービスは在庫に回せないのだ。経済が相対的に財よりもサービスを多く生産するようになると、生産が実需だけに依存する程度が高まり、回復は遅くなる。我々は、サービスが産出に占める割合の時系列的および州ごとの変動を利用した分析を行った。景気後退の程度をコントロールすると、サービスのシェアが高いほど、回復は遅くなる。我々の得た結果を今回の景気後退に適用すると、景気後退の大きさを考えた場合、サービスの割合の上昇だけで2009年以降の回復が半世紀前より1年長くなることが示される。


Binderは、この論文は需要の予想される増加と在庫の積み増しについて書いているが、需要の予想される減少に応じて財の生産者が減産して在庫を取り崩すならば景気後退の開始を早めるのではないか、従って経済のサービス化は景気回復を長引かせるにしても景気後退期を短くするのではないか――両者の間に非対称性があるかどうかは分からないが――、とコメントしている。また、この話をモデル化するならば、在庫費用が異なる2つの企業から成るマクロモデルを組み、サービス業の在庫費用は無限大とすれば良いと思うが、そうしたモデルが既にあるかどうか知っていれば教えてほしい、とも書いている。


この話を現在の日本に当てはめるならば、来年の消費税率引き上げによる駆け込み需要と反動減が予想されているが、経済のサービス化が進んだ分*1、その影響は弱まる、ということになろうか…。

*1:ちなみにSNAの形態別国内家計最終消費支出で1996年度と2011年度のサービス支出が占める割合を比較すると、名目で53.0%から57.5%、実質で55.4%から56.0%とそれぞれ4.5ポイントおよび0.6ポイント上昇している。ただし前回の消費税引き上げ前後はこの比率が上昇していた時期とも重なるため、1997年度と2011年度の比較にすると、名目では54.5%から57.5%と上昇幅は3ポイントにまで縮小し、実質では56.9%から56.0%とむしろ減少している。下図参照。