というvoxeu記事をMostly Economicsが紹介している（原題は「The past in the Polish present」で、著者はIrena Grosfeld、Ekaterina Zhuravskaya）。
以下はその元論文「Persistent effects of empires: Evidence from the partitions of Poland」の要旨。
We use spatial regression discontinuity analysis to test whether the historical partition of Poland among three empires--Russia, Austria-Hungary, and Prussia--as a persistent effect on political outcomes in contemporary Poland and to examine the channels of this influence. We find that the main difference in voting across Polish territories attributed by many observers to the legacy of empires is driven by omitted variables. However, empires do have a significant causal effect. The lands that belonged to Prussia (compared with those that belonged to Russia) vote more for anticommunist (post-Solidarity) parties. This difference is largely explained by the persistent effect of infrastructure built by Prussians at the time of industrialization. The former Austrian lands (compared with former Russian lands) votes more for religious conservatives and for liberals. The difference in the vote for religious conservatives is explained by persistent differences in church attendance driven by vastly different policies of the two empires toward the Catholic Church. Higher support for liberals on the Austrian side is partly explained by a persistent belief in democracy, which is a legacy of decentralized democratic governance of the Austrian empire.
（拙訳）
我々は空間回帰分断分析を用いて、ロシア、オーストリア＝ハンガリー、プロシャの3帝国によるポーランド分割という歴史上の出来事が現代ポーランドの政治的帰結に持続的な影響として表れているかを検証し、かつ、その影響の経路を調べた。ポーランドの地域ごとの投票結果の大きな違いを、多くの識者は帝国の遺産に帰しているが、我々はそれが除外変数に起因していることを見い出した。しかし、帝国は確かに重要な影響を残している。プロシャに属していた地域は、（ロシアに属していた地域に比べ）反共産主義的な（連帯の後継の）党に投票する傾向が強い。この違いは、産業化の時代にプロシャによって建設されたインフラの持続的影響によってかなりの程度説明できる。かつてオーストリアに属していた地域は、（ロシアに属していた地域に比べ）宗教保守派やリベラルに投票する傾向が強い。宗教保守派に対する投票行動の差は教会への出席率の持続的な違いによって説明され、その違いは2つの帝国がカトリック教会に対して取った政策が大きく異なっていたことに起因している。オーストリア側地域でリベラルへの支持が高いことは、民主主義への持続的な信奉によって部分的に説明されるが、それはオーストリア帝国の分権的な民主統治の遺産である。
上記要旨で除外変数に帰している投票の違いを、voxeu記事では以下の図で示している：
これによると、ポーランドの2大政党である市民プラットフォーム（PO）と法と正義（PiS）への投票の差は、かつてのロシアとプロシャの境で特に不連続性は見られない*1。従ってこの違いは、かつて統治した帝国の違いというよりは、西側や北の港への距離によって決まっているのではないか、というのが著者たちの見方である。
一方、共産党後継の民主左翼連合（SLD）とポーランド農民党（PSL）への投票にはロシアとプロシャの境で不連続性が見られる。また、リベラルへの投票にはロシアとオーストリアの境で不連続性が見られる。
そのほかvoxeu記事では、ロシアとプロシャの境、ロシアのオーストリアの境について、ミサへの出席率やインフラ（鉄道）へのアクセスや民主主義への選好について不連続性を表わす以下の図を示している。
*1:ポーランドの政党一覧 - Wikipediaによると、「ポーランドの政党制は「連帯」系のPOとPiSの2大政党に、ポスト「共産主義」政党であるSLDとPSLが中堅政党として位置する穏健な多党制となっている」との由。
