ブキャナンってどこが経済学者として凄かったの?

Hicksianさんもまとめエントリでリンクされているが、先日他界したジェームズ・ブキャナン*1の功績について、マシュー・イグレシアスの要望に応じる形で、ブキャナンが1983年以降に教授を務めたジョージ・メイソン大学の教授であるタイラー・コーエンが箇条書きに書き出している。以下はその拙訳。

  1. 「クラブの理論」を開発し、私的なつながりが、最適水準にある排除性を持つ公共財を提供する条件を提示した*2
  2. 同時代で最善かつ最も厳密な公的債務の影響に関する分析を行った。
  3. ゴードン・タロックと共に、取引コストと他者に課される外部コストの観点からの投票ルールの経済分析を創始した。例えば議事進行妨害に関する現在のブロゴスフィアでの議論はすべてこの手法に基づいている。ただし、今やあまりにも当たり前のものになっているので、それが当時においてどれだけ画期的なものだったか我々は認識していないが。
  4. 同じくタロックと共に、二院制や票取引*3やその他の議会における特性についての経済分析を創始した。
  5. ハルサニと共に、ロールズ以前に「原初状態*4」の特性を系統化し、ロールズに多大な影響を与えた。ちなみに、私(=コーエン)はブキャナンが一流の哲学者と議論しているのを何度も目撃したが、彼らに引けを取らないどころか優ってさえいた。
  6. 外部性の経済学的概念を突き止めることに、技術的な側面も含めて貢献した。
  7. ラムゼイ以来最も重要な最適税制理論の修正を行った。即ち、いわゆる課税の効率的な手法は時として簡単に使われ過ぎる、という点である。これはブレナンと共著の「The Power to Tax邦訳)」に収録されている。また、ドワイト・リーと共著した静学的なラッファー曲線と動学的なラッファー曲線を対比させた論文*5も重要である。
  8. ケインズ経済学が景気の良い時に適切な財政黒字をもたらさず、それゆえ過剰な財政赤字への危険なラチェット効果が内在している理由について、公共選択論に基づく分析を提供した。
  9. 経済学における主観的および客観的な価値観の齟齬、および、個人主義的な方法論に基づく前提について、おそらく他のどの経済学者よりも徹底的に考え抜いた。大抵の経済学者はこの研究を嫌っているか、もしくは理解しようとするのを拒絶する。理由は、その研究が自分たちの地位を低める、単に理解が難しい、理解に哲学が要求される、のいずれかである。しかし、それはブキャナンの偉大な業績のひとつである――たとえ、a)私自身は彼の手法に同意しておらず、b)私見では、要点が読みやすくまとめられておらず、説明も十分でない、としても。ブキャナンはナイトとシャックルの研究を非常に重視しており、彼らの警告が一般に実用主義的な立場から排除されていることは、実際にはそれほど明確な根拠に基づくものではない、ということを理解していた。
  10. 出現過程を通じてのみ定義される秩序」や「交換とカタラクティクス*6の科学」に関する彼のハイエク主義的な研究は、経済学の多くにおいて見られる科学的な装いを暴く重要な貢献であった。そこでは、そもそも効率性という概念が独立に形成し得るかについて疑問が投げ掛けられた。この仕事もまた、嫌われるか無視されるかした。ブキャナンはやり過ぎたのかもしれないが、その研究は非常に重要で、これまで看過されてきた視点である。
  11. ゲームの規則」という点について、おそらく他のどの経済学者よりも一貫して考え抜いた。この点については未だに過小評価されており、応用も十分では無い。それはテクノクラシーにこれまでとまったく違う解釈を与えた。
  12. 経済思想史に関して重要な研究を行い、財政や公共選択に関するイタリア学派への興味を呼び覚ました。
  13. 後年の労働倫理、収穫逓増、および経済成長に関するユーンとの論文は、過小評価されている。アンチコモンズ*7に関するユーンとの研究私見では称賛に値する。


コーエンは、ブキャナンの業績はもっと多岐に亘り、以上は取りあえず手始めに過ぎない、とした上で、まずは環境汚染に関するピグー税の論文を嫁、と推奨している。また、市場マネタリストラース・クリステンセンのブログエントリにリンクし、ブキャナンは金融政策のルールの重要性を理解し、景気悪化に対して弾力的に貨幣供給を増やす体制を好んだ、と述べている。

*1:cf. Wikipedia

*2:cf. Wikipedia(公共財)

*3:cf. Wikipedia

*4:cf. Wikipedia

*5:cf. ここ

*6:cf. Wikipedia

*7:cf. Wikipedia